東大塾長の山田です。
このページでは,「沸点上昇と凝固点降下」について解説しています。
沸点上昇度や凝固点降下度の式の導き方や用語などを超わかりやすく詳しく説明しているので,ぜひ参考にしてください!
1. 蒸気圧降下
水などの溶媒に塩化ナトリウムなどの不揮発性の物質を溶かしたとき、つくった溶液の蒸気圧は、同じ温度の純粋な溶液の蒸気圧に比べて低くなります。
このような現象のことを、蒸気圧降下といいます。
不揮発性の物質を溶かした溶液では、加えた不揮発性の物質の分だけ溶媒の割合が減ります。
このように、純溶媒に不揮発性である溶質が混ざる(図2)ことで、容器の表面にある気体になろうとしている溶媒分子の数が、図1のように純溶媒だけの場合に比べて減少します。
これによって、蒸気圧降下が起こるのです。
2. 沸点上昇
水などの溶媒に塩化ナトリウムなどの不揮発性の溶質を加えると、つくった溶液の沸点は純粋な溶媒の沸点に比べて高くなります。
このような現象のことを、沸点上昇といいます。
「蒸気圧とは(蒸気圧曲線・蒸気圧降下・温度・沸点・計算)」の記事で説明していますが、液体の沸騰は、液体の蒸気圧が大気圧と等しくなるときに起こります。
例えば純水については、100℃で蒸気圧と大気圧が等しくなり、純水は沸騰します。
しかし、水溶液の蒸気圧は大気圧より小さくなるので、水溶液は沸騰しません。
つまり、100℃は純水にとって沸点となりますが、水溶液にとっては沸点にはなりません(図3)。
水溶液の沸点は、その蒸気圧が大気圧と等しくなる \( \displaystyle 100 + \Delta t_b ℃ \) となります。
3. 凝固点降下
「一定時間内に凝固する溶媒分子の量」と「一定時間内に融解する溶媒分子の量」が等しくなったときの温度のことを凝固点といいます。
例えば、純水では0℃で「凝固する速度=融解する速度」となります(図4)。
溶液の凝固点が、純粋な溶媒の凝固点に比べて低くなる現象のことを凝固点降下といいます。
同じ温度の水溶液では、加えられた溶質粒子の分だけ純溶媒に比べ、溶液中の溶媒分子の割合が減少し凝固する溶媒分子の数が減って、「凝固する速度<融解する速度」となります。
これにより、固体の融解が進みます。
つまり、0℃は、純水にとっては凝固点となりますが、水溶液にとっては凝固点とはなりません(図5)。
4. 冷却曲線
物質を冷却したときの、冷却し始めてからの時間を横軸、温度を縦軸にとり、経過時間と温度の関係を示した曲線を冷却曲線といいます。
図6には,純溶媒の冷却曲線と不揮発性の物質が溶けている溶液の2つの冷却曲線を表しています。
液体を冷却していくと凝固点を過ぎても液体の状態を保つことがあります。この状態のことを過冷却といいます。
凝固が始まると、冷却しているのにもかかわらず、凝固熱が発生するため温度が上昇します。
その後、純溶媒の場合は、冷却による吸熱と凝固熱が等しくなるため、冷却曲線は水平になります。
一方で、溶液の場合は、凝固の進行にともなって溶液の濃度が増大し、凝固点降下度がより大きくなり、温度が下がっていくため冷却曲線は右下がりになります。
純溶媒と溶液の冷却曲線の直線部分を左に延長したときに、それぞれの冷却曲線と交わる点が凝固点となり、これによって凝固点降下度もわかります。
凝固点は直線部分の左端ではないので間違えないように注意してください。
5. 沸点上昇度・凝固点降下度の公式
「2. 沸点上昇」で述べた純溶媒の沸点と溶液の沸点の差 \( \displaystyle \Delta t_b \)〔K〕のことを沸点上昇度といいます。
希薄溶液の沸点上昇度は、溶質の種類には関係なく、溶液の質量モル濃度だけに比例します。
この比例定数 \( \displaystyle K_b \)〔k・kg/mol〕のことをモル沸点上昇といいます。
これは、溶液の種類ごとに決まっていて、濃度 \(1 \)〔mol/kg〕の溶液(溶質は不揮発性の非電解質)の沸点上昇度に相当します。
不揮発性の物質を溶かした質量モル濃度が \( m \)〔mol/kg〕の希薄溶液においては、次の関係式が成り立ちます。
また、「3. 凝固点効果」,「4. 冷却曲線」で述べた純溶媒の凝固点と溶液の凝固点の差 \( \displaystyle \Delta t_f \)〔K〕のことを凝固点降下度といいます。
希薄溶液の凝固点降下度は、溶質の種類には関係なく、溶液の質量モル濃度だけに比例します。
この比例定数 \( \displaystyle K_f \)〔k・kg/mol〕のことをモル凝固点降下といいます。
これは、溶液の種類ごとに決まっていて、濃度 \(1 \)〔mol/kg〕の溶液(溶質は不揮発性の非電解質)の凝固点降下度に相当します。
不揮発性の物質を溶かした質量モル濃度が \( m \)〔mol/kg〕の希薄溶液においては、次の関係式が成り立ちます。
\( \displaystyle \Delta t_f=K_fm \)
ただし、\( m \) を求める際には、電離や会合の効果を考える必要があります(これは下で説明します)。
ここまで、沸点上昇度、凝固点降下度の公式について説明してきましたが、公式中の質量モル濃 \( m \) は電離や会合を考える必要があります。
以下では、様々なパターンにおける質量モル濃度 \( m \) の値について解説します。
5.1 溶質が電離も会合もしないとき
モル質量 \( M \)〔g/mol〕の電離も会合もしない溶質 \( w \)〔g〕を溶媒 \( W \)〔g〕に溶かした溶液の質量モル濃度 \( m \) は次のようになります。
\( \displaystyle 質量モル濃度 m = \frac{\frac{w}{W}}{\frac{W}{1000}} = \frac{w}{M} \times \frac{1000}{W} [mol/kg] \)
また、これを「4. 冷却曲線」の沸点上昇度と凝固点降下度の公式に代入すると下のようになります。
この式からわかるように、沸点上昇度や凝固点降下度を測定することにより分子量を求めることができます。
しかし、分子量が大きくなると沸点上昇度や凝固点降下度の値は小さくなるので測定が難しくなります。
よって、沸点上昇や凝固点降下を利用した分子量の測定法は、高分子化合物などの大きな分子量を持つ物質の分子量の測定には適していません。
5.2 溶質が強電解質のとき
5.2.1 \( KCl \)
まず、溶質が塩化カリウム \( KCl \) であるときを考えてみましょう。
電離前の \( KCl aq \) の濃度を \( a \)〔mol/kg〕とおくと、
上のように、\( KCl \) は、水溶液中ではほぼ完全に電離しています。
そして、電離後の全粒子濃度は \( 2a \)〔mol/kg〕となります。
すると、沸点上昇度もしくは凝固点降下度は全粒子濃度に比例するので
このようになります。
5.2.2 \( Ca Cl_2 \)
溶質が塩化カルシウム \( Ca Cl_2 \) であるときを考えてみましょう。
電離前の \( Ca Cl_2 aq \) の濃度を \( b \)〔mol/kg〕とおくと、
\( KCl \) と同様に、水溶液中ではほぼ完全に電離しています。
そして、電離後の全粒子濃度は \( 3b \)〔mol/kg〕となります。
すると、沸点上昇度もしくは凝固点降下度は全粒子濃度に比例するので
このようになります。
5.3 溶質が弱電解質のとき
溶質が酢酸 \( C H_3 COOH \) のであるときを考えてみましょう。
酢酸水溶液中では、\( C H_3 COOH \) はその一部が電離します。
電離前の酢酸水溶液の濃度を \( c \)〔mol/kg〕、酢酸の電離度 \( α \) とすると、
これより、電離後の全粒子濃度は \( c (1+α) \)〔mol/kg〕となります。
すると、沸点上昇度もしくは凝固点降下度は全粒子濃度に比例するので
このようになります。
5.4 溶質が会合するとき
酢酸 \( C H_3 COOH \) のベンゼン溶液について考えてみましょう。
ベンゼン溶液中では、\( CH_3 COOH \) はその一部が会合します。
会合前の酢酸のベンゼン溶液の濃度を \( d \)〔mol/kg〕、酢酸の会合度 \( β \) とすると、
これより、会合後の全粒子濃度は \( \displaystyle d (1 – \frac{1}{2} β ) \)〔mol/kg〕となります。
すると、沸点上昇度もしくは凝固点降下度は全粒子濃度に比例するので
このようになります。
6. 例題
ここでは、沸点上昇度、凝固点降下度を使った例題を紹介したいと思います。
ただし、以下の問題では、水の沸点を100℃、凝固点を0℃、水のモル沸点上昇を 0.52、モル凝固点降下を 1.85 とし、原子量をそれぞれ\( H=1 \)、\( C=12 \)、\( O=16 \)、\( Na=23 \)、\( Cl=35.5 \)、\( Ca=40 \)とします。
問題1
200gの水にグルコース \( C_6 H_{12} O_6 \) を0.90g溶かした。このときのグルコース水溶液の沸点を求めよ。
【解答】
グルコース \( C_6 H_{12} O_6 \) の分子量は 180 であるから、沸点上昇度を求める公式に代入すると、沸点上昇度 \( \displaystyle \Delta t_b \) は
\( \displaystyle \Delta t_b = 0.52 \times \frac{0.90}{180} \times \frac{1000}{200} = 0.013 〔K〕\)
となるので、この水溶液の沸点は \( 100.013〔℃〕 \)
答‥100.013〔℃〕
問題2
500gの水に塩化ナトリウム \( NaCl \) を 1.17g 溶かした。このときのグルコース水溶液の凝固点を求めよ。
【解答】
塩化ナトリウム \( Na Cl \) の分子量は 58.5である。
\( \displaystyle NaCl → Na^+ + Cl^- \)
また、塩化ナトリウムは上のように電離するから、この電離を考慮し、凝固点降下度を求める公式に代入すると、凝固点降下度 \( \Delta t_f \) は
\( \displaystyle \Delta t_f=1.85 \times \frac{1.17}{58.5} \times \frac{1000}{500} \times 2 = 0.148〔K〕 \)
となるので、この水溶液の凝固点は \( -0.148〔℃〕\)
答‥-0.148〔℃〕
問題3
100gの水に塩化カルシウム \( CaCl_2 \) を1.11g溶かした。このときの塩化カルシウム水溶液の沸点上昇度を \( \Delta t \) とする。
また、200gの水に酢酸 \( CH_3 COOH \) を2.4g溶かした。このときの酢酸水溶液の沸点上昇度が \( \Delta t \) となるときの酢酸 \( CH_3 COOH \) の電離度を求めよ。
【解答】
塩化カルシウム \( CaCl_2 \) の分子量は 111 である。
\( \displaystyle CaCl→Ca^{2+}+2Cl^- \)
また、塩化カルシウムは上のように電離するから、この電離を考慮し、沸点上昇度を求める公式に代入すると、沸点上昇度 \( \Delta t \) は
\( \displaystyle \Delta t = 0.52 \times \frac{1.11}{111} \times \frac{1000}{100} \times 3 = 0.156 〔K〕 \)
また、酢酸の沸点上昇度は「5. 沸点上昇度・凝固点降下度の公式」で示した式で求まるので
\( \displaystyle 0.156 = 0.52 \times \frac{2.4}{60} \times \frac{1000}{200} \times (1+α) \)
\( \displaystyle α = \frac{0.156}{0.52} \times \frac{60}{2.4} \times \frac{200}{1000}-1 = 0.50 \)
となる。
答‥電離度α=0.50
7. まとめ
最後に沸点上昇、凝固点降下についてまとめておきます。
- 水などの溶媒に塩化ナトリウムなどの不揮発性の物質を溶かしたとき、つくった溶液の蒸気圧は、同じ温度の純粋な溶液の蒸気圧に比べて低くなる。このような現象のことを、蒸気圧降下という。
- 水などの溶媒に塩化ナトリウムなどの不揮発性の溶質を加えると、つくった溶液の沸点は純粋な溶媒の沸点に比べて高くなる。このような現象のことを、沸点上昇という。
- 溶液の凝固点が、純粋な溶媒の凝固点に比べて低くなる現象のことを凝固点降下という。
- 液体を冷却していくと凝固点を過ぎても液体の状態を保つことがある。この状態のことを過冷却という。
- \( \displaystyle \Delta t_b = K_bm \)(\( \displaystyle \Delta t_b \) は沸点上昇度、\( K_b \) はモル沸点上昇、\( m \) は質量モル濃度を表す)
- \( \displaystyle \Delta t_f = K_fm \)(\( \Delta t_f \) は凝固点降下度、\( K_f \) はモル凝固点降下、\( m \) は質量モル濃度を表す)
沸点上昇度や凝固点降下度はとても考えやすいところだとは思いますが、電離や会合の効果を忘れて計算ミスをするといったことがよくあります。
ミスをなくすためにもたくさん練習して身につけてください。
また、冷却曲線における水溶液のグラフの直線部分が右下がりになっている理由も問題で聞かれやすいポイントです。しっかり理解しましょう!
この分野は単純な計算問題ですので、しっかりマスターして間違えることのないようにしましょう!!
\( \displaystyle \Delta t_b=K_bm \)
ただし、\( m \) を求める際には、電離や会合の効果を考える必要があります(これは下で説明します)。