東大塾長の山田です。
このページでは,「ヘンリーの法則」について解説しています。
ヘンリーの法則は多くの人が苦戦するところです。ここでは、混乱しやすいポイントを超わかりやすく解説しています。是非参考にしてください。
1. 気体の溶解度
固体の溶解度については「溶解度とは(溶解度曲線と公式)」の記事で解説しました。
ここでは、気体の溶解度について説明します。
気体の溶解度も、固体の溶解度と同様に、気体の種類によって大きく異なります。また、温度によって変化します。
しかし、一般に一定の圧力のもとでは、固体の溶解度とは異なり、気体の溶解度は温度が高くなるほど小さくなります。
これは、温度が高くなるにつれて、溶質分子の熱運動が激しくなり、溶質分子が溶液中から飛び出しやすくなることが原因です。
2. ヘンリーの法則とは?
温度と溶媒の量が一定であるとき溶媒に溶ける気体の物質量は圧力に比例するという法則のことをヘンリーの法則といいます。
これを簡潔に言い換えると、押した分だけ溶けるということになります。
上の図のように考えるととても簡単ですね。
圧力が2倍、3倍となると気体の溶ける量(molやg)も2倍、3倍となります。
ヘンリーの法則は、水への溶解度が小さい(水との反応性が小さい)気体において成り立ちます。
3. 多くの人がつまずく原因
上で示したように考えればヘンリーの法則はとても単純でわかりやすいと思います。
しかし、多くの人がヘンリーの法則でつまずいていしまいます。
このようなことが起こる要因としては、実際の問題では上で示した【物質量と圧力の関係】ではなく【体積と圧力の関係】を問う問題が多いからなのです。
ヘンリーの法則には2で説明した「物質量と圧力の関係」による定義の他に「体積と圧力の関係」による定義があります。
それは、以下のようなものです。
一定温度で一定の量の溶媒に対し、
①物質量と圧力の関係
溶媒に溶ける気体の物質量は、圧力に比例する。
②体積と圧力の関係
溶媒に溶ける気体の体積は、その圧力のもとで一定になる。
このように一方では比例する、もう一方では一定になると説明しているのです。これが原因で多くの人がわからなくなってしまうのです。
しかし、実際には同じことを言っているのです。どういうことなのか解説していきましょう。
3.1 それぞれの考え方は?
まずは圧力\(P〔Pa〕\)をかけたとき、物質量 \( n \) [mol] が溶けたときを考えてみましょう。
このように体積 \( \displaystyle V = \frac{nRT}{P} \) 分の気体が溶け込んでいます。
次に圧力を2倍の \( 2P \) [Pa] としたときについて考えてみましょう。
圧力を2倍の \( 2P \) [Pa] にしたとき、圧力が \( P \) [Pa] のときの体積 \( V \) の部分に \( 2n \) [mol] の気体が集まってきます。
上図をみるとこれは明らかだと思います。
この体積 \( V \) の部分が水に溶け込むことにより、\( 2n \) [mol] 分の物質量が溶媒に溶け込みます。これより、溶ける体積の量は一定となりますが、溶ける気体の物質量は圧力に比例していることがよくわかると思います。
圧力が3倍、4倍‥‥となったときも、同様に考えれば、上記のことは当てはまります。
3.2 問題を使った例
3.1ではヘンリーの法則のわからなくなりやすい要因を説明しましたが、問題によっては混乱しやすいものがあります。
ここでは、例題を使って解説します。
\( 1.0 \times 10^5 Pa \) の \( {\rm O_2} \) の水への溶解度は水1.0Lに対して、20℃で \( 1.3 \times 10^{-3} mol \) である。水1.0Lに対して、20℃で\( 3.0 \times 10^5 Pa \) の圧力をかけると、その体積は \( 1.0 \times 10^5 Pa \) のもとで何Lか。
この文章をみると、「その体積は \( 1.0 \times 10^5 Pa \) のもとで何Lか。」という部分がわかりにくいと思います。
これがどういうことなのか説明していきます。
まずは、\( 3.0 \times 10^5 Pa \) で \( {\rm O_2} \) を溶かします。
上記で説明した通り、ヘンリーの法則に従って溶けます。
ここまでは、上記の説明通りですが、最終的に知りたいのは \( 1.0 \times 10^5 Pa \) での体積です。
今の状態では \( 3.0 \times 10^5 Pa \) なので、溶かした気体を取り出してきたとして、それが \( 1.0 \times 10^5 Pa \) で何Lになるかを考える必要があるのです。
3で説明したように、体積と圧力の関係によるヘンリーの法則では、その圧力のもとでは一定となりますが、このようにみる圧力が変わるときには成り立ちません。
圧力が3倍となるので、溶ける気体の物質量はヘンリーの法則から、
\( \displaystyle 3 \times 1.3 \times 10^{-3} = 3.9 \times 10^{-3} \)
この物質量の気体の \( 1.0 \times 10^5 Pa \) のもとでの体積は、
\( \begin{align}
\displaystyle V & = \frac{3.9\times10^{-3}\times8.3\times10^3\times293}{1.0\times10^5} \\
\\
& = 0.0948 ‥‥ \\
\\
& ≒ 0.095 〔L〕
\end{align} \)
となります。
4. 混合気体
溶媒に接している気体が混合気体であるときは、分圧で考えていけばOKです。
具体的な例を用いて考えてみましょう。
27℃、\( 1.0 \times 10^5 Pa \) の \( {\rm N_2} \) と \( {\rm O_2} \) の混合気体が水1.0Lに接している。それぞれ何mol溶けているか求めよ。ただし、水1.0Lに対する27℃での \( 1.0 \times 10^5 Pa \) の気体の溶解度は、\( {\rm N_2} \) が \( 6.0 \times 10^{-4} mol \)、\( {\rm O_2} \) が \( 1.2 \times 10^{-3} mol \) とする。また、混合気体の物質量比は \( {\rm N_2 : O_2 = 3 : 2 } \) とする。
この問題は混合気体のそれぞれの気体の分圧を考えれば簡単に解けます。
まず、\( {\rm N_2} \)、\( {\rm O_2} \) それぞれの分圧を考えます。
混合気体の物質量比は \( {\rm N_2 : O_2 = 3:2 } \) となるので、\( {\rm N_2} \) の分圧は \( 0.6 \times 10^5 Pa \)、\( {\rm O_2} \) の分圧は \( 0.4 \times 10^5 Pa \) となります。
これをもとにそれぞれの溶解度を求めます。
まず、窒素の溶解度は \( 1.0 \times 10^5 Pa \) では \( 6.0 \times 10^{-4} mol \) であるから、
\( \displaystyle \frac{ 0.6 \times 10^5 }{ 1.0 \times 10^5 } \times 6.0 \times 10^{-4} = 3.6 \times 10^{-4} mol \)
また、酸素の溶解度は \( 1.0 \times 10^5 Pa \) では \( 1.2 \times 10^{-3} mol \) であるから、
\( \displaystyle \frac{ 0.4 \times 10^5 }{ 1.0 \times 10^5 } \times 1.2 \times 10^{-3} = 4.8 \times 10^{-4} mol \)
となります。
5. 例題
ここでは、ヘンリーの法則を用いた例題を紹介したいと思います。
次の(1)~(4)に答えよ。ただし、窒素は0℃、、\( 1.0 \times 10^5 Pa \) のもとで1Lの水に \( 2.3 \times 10^{-2} L \)、 溶けるものとします。また、\( {\rm N} \) の原子量を14とする。答えはすべて有効数字2桁で答える。
(1) 0℃、\( 1.0 \times 10^5 Pa \) の窒素は、2Lの水に何g溶けるか。
(2) 0℃、\( 3.0 \times 10^5 Pa \) の窒素は、1Lの水に何g溶けるか。
(3) 0℃、\( 1.5 \times 10^6 Pa \) の状態の窒素は、1Lの水に何L溶けるか。
(4) 酸素と窒素の物質量比が 2:1 の混合気体がある。0℃で、全圧が \( 1.0 \times 10^5 Pa \) の混合気体が水1Lに接しているとき、この水1Lに溶けている窒素は何gか。
(1) 0℃、\( 1.0 \times 10^5 Pa \) で窒素は1Lの水に \( 2.3 \times 10^{-2} L \) 溶けます。
一定量の水に溶ける気体の質量・物質量は気体の圧力に加えて、溶媒の体積にも比例します。
ここで、\( {\rm N_2} \) の分子量は28であるので、0℃、\( 1.0 \times 10^5 Pa \) で窒素は1Lの水に、\( \displaystyle \frac{2.3 \times 10^{-2}}{22.4} \times 28 \) [g] 溶けます。
溶解する気体の質量は、溶媒の体積に比例するので、
\( \displaystyle \frac{2.3\times10^{-2}}{22.4} \times 28 \times \frac{2.0}{1.0} = 0.0575〔g〕 \)
答‥0.058〔g〕
(2) 0℃、\( 1.0 \times 10^5 Pa \) で窒素は1Lの水に \( 2.3 \times 10^{-2} L \) 溶けます。
\( {\rm N_2} \) の分子量は28であるので、0℃、\( 1.0 \times 10^5 Pa \) で窒素は1Lの水に、\( \displaystyle \frac{2.3\times10^{-2}}{22.4} \times 28 \) [g] 溶けます。
溶解する気体の質量は、圧力に比例するので、
\( \displaystyle \frac{2.3\times10^{-2}}{22.4} \times 28 \times \frac{3.0\times10^5}{1.0\times10^5} = 0.08625〔g〕 \)
答‥0.086〔g〕
(3) 0℃、\( 1.0 \times 10^5 Pa \) で窒素は1Lの水に \( 2.3 \times 10^{-2} L \) 溶けます。
それぞれの圧力ではかった体積は、圧力に無関係で一定の値であるから、\( 2.3 \times 10^{-2} L \) となります。
答‥0.023〔L〕
(4) まず、窒素の分圧は \( \displaystyle \frac{1}{3} \times 1.0 \times 10^5 Pa \) となります。
0℃、\( 1.0 \times 10^5 Pa \) で窒素は1Lの水に \( 2.3\times 10^{-2} L \) 溶けます。
\( {\rm N_2} \) の分子量は28であるので、0℃、\( 1.0\times 10^5 Pa \) で窒素は1Lの水に、\( \displaystyle \frac{2.3\times10^{-2}}{22.4} \times 28 〔g〕 \) 溶けます。
溶解する気体の質量は、圧力に比例するので、
\( \displaystyle \frac{2.3\times10^{-2}}{22.4} \times 28 \times \frac{\frac{1}{3} \times 1.0 \times 10^5}{1.0 \times 10^5} =0.009583… 〔g〕 \)
答‥0.0096〔g〕
6. まとめ
最後にヘンリーの法則についてまとめます。
- 一般に一定の圧力のもとでは、気体の溶解度は温度が高くなるほど小さくなる。
- 温度と溶媒の量が一定であるとき溶媒に溶ける気体の物質量は圧力に比例するという法則のことをヘンリーの法則という。
ヘンリーの法則は多くの受験生がつまずきやすく、混乱しやすい分野です。
比例するものと一定になるものとでよくわからなくなることが多いですが、ここで説明したように考え方のベクトルを変えただけで同じことを言っています。
曖昧なままにしていると間違えてしまうので、何度も読み返してしっかりマスターして多くの問題に触れてください!
ヘンリーの法則の二つ目の定義は「その温度の下で」ではないでしょうか?
すみません日本語の問題でした。一定温度一定量の溶媒の下で、気体の圧力が変化しても、溶け込んでいる気体のその時の圧力における体積は変化しない。ことを言っていないと勘違いしてしまいました…。
わかりやすかったです
ありがとうございました‼️