東大塾長の山田です。
このページでは化学平衡の法則、ルシャトリエの原理について解説しています。
平衡定数に関する計算問題やルシャトリエの原理の具体的な例を用いて詳しく説明しています。是非参考にしてください。
1. 化学平衡
1.1 可逆反応と不可逆反応
1.1.1 可逆反応
水素\(H_2\)とヨウ素\(I_2\)の混合気体を密閉容器に入れ高温に加熱すると、ヨウ化水素\(HI\)が生成します。この反応の反応式は次のようになります。
\(H_2 + I_2 → 2HI\)
逆に、ヨウ化水素を容器に入れて加熱すると水素とヨウ素が生成します。この反応の反応式は次のようになります。
\(2HI → H_2 + I_2\)
このように、左辺から右辺への反応と右辺から左辺への反応の両方が起こる反応のことを可逆反応といいます。可逆反応の反応式は次のように表せます。
\(H_2 + I_2 ⇄ 2HI\)
この式における\(「⇄」\)は、両方の反応が起こることを示しています。また、可逆反応において右向きに進む反応(→)を正反応、左向きに進む反応(←)を逆反応といいます。
1.1.2 不可逆反応
可逆反応に対して、一方向にしか反応が進まない反応のことを不可逆反応といいます。反応熱の大きい燃焼、気体を発生し外部に出ていく反応、沈殿を生じる反応、中和反応などが不可逆反応です。
1.2 化学平衡
1.2.1 化学平衡とは?
水素とヨウ素の反応を例に説明していきましょう。
まず、正反応を見てみましょう。
\(H_2 + I_2 → 2HI\)
反応速度の式(\(v_{正反応}=k_{正}[H_2][I_2]\))より、反応物の濃度\([H_2]、[I_2]\)が大きくなると反応速度\(v_{正反応}\)も大きくなります。この反応の正反応における反応物は\(H_2\)と\(I_2\)です。反応速度は反応物である\(H_2\)と\(I_2\)の濃度が減少していくので、最初が最も大きく徐々に小さくなっていきます。
次に、逆反応を見てみましょう。
\(H_2 + I_2 ← 2HI\)
逆反応は、\(HI\)から\(H_2\)と\(I_2\)が生成する反応であるから、\(HI\)が反応物です。始めは\(HI\)の濃度が極めて低いので、反応速度の式\(v_{逆反応}=k_{逆}[HI]^2\)より反応速度は非常に小さくなります。徐々に\(HI\)が増加していくと、それに伴い反応速度\(v_{逆反応}\)も大きくなります。
以上のように、正反応の速度は次第に小さく、逆反応の速度は次第に大きくなっていきます。そして、最終的には正反応の速度と逆反応の速度は等しくなります。このように、正反応の速度と逆反応の速度が等しくなった状態のことを化学平衡の状態、または平衡状態といいます。
平衡状態では、反応物質のモル濃度や生成物のモル濃度が一定のままになるので反応が停止したように見えます。これは、「反応が終わったのではなく、正反応と逆反応が起こっているが、2つの速度が等しいので反応が進んでいないように見える」ということをしっかり理解しておいてください。
平衡状態‥正反応と逆反応の反応速度が等しくなり、反応が停止したように見える状態
\(v_{正反応}=v_{逆反応}≠0\)
1.2.2 平衡状態に達するまでの過程
ここでも、水素とヨウ素が反応しヨウ化水素が生成する反応をもとに考えます。
【濃度の変化】
\(H_2\)と\(I_2\)の濃度は、時間が経過するにつれて減少していくので、最初が最大になります。
一方で\(HI\)の濃度は、最初は0ですが、時間が経過するにつれて増加していきます。
やがて、平衡状態に達すると、それぞれの濃度は一定になり変化しなくなります。
【触媒による変化】
触媒を加えると、正反応の速度も逆反応の速度も速くなります。したがって、平衡状態に達するまでの時間が短くなりますが、到達する平衡状態は同じになります。
2. 化学平衡の法則
2.1 平衡定数
可逆反応において、正反応の速度を\(v_{正}\)、逆反応の速度を\(v_{逆}\)とすると、平衡状態では\(v_{正}=v_{逆}\)と説明しました。
例えば、水素とヨウ素からヨウ化水素が生成する反応
\(H_2 + I_2 ⇄ 2HI\)
の反応速度式は、正反応\(v_{正}=k_1[H_2][I_2]\)、逆反応\(v_{逆}=k_2[HI]^2\)となるので、平衡状態では次の式が成り立ちます。
\(k_1[H_2][I_2]=k_2[HI]^2\)
この式を変形すると、
\(\displaystyle \frac{[HI]^2}{[H_2][I_2]}=\frac{k_1}{k_2}\)
この式が得られます。ここで、右辺は定数となるのでこれを\(K\)と書き換えると次の式が得られます。
\(\displaystyle \frac{[HI]^2}{[H_2][I_2]}=K\)
この式の\(K\)のことを平衡定数といいます。反応速度定数は温度や反応の種類によって変わる定数であるので、平衡定数も温度や反応の種類によって変わります。
つまり、温度が一定であると平衡定数も一定になります。
2.2 化学平衡の法則
2.2.1 濃度平衡定数
一定温度で平衡状態にある
\(aA + bB ⇄ cC + dD\)
の可逆反応の平衡定数は次のような関係式で表すことができます。
\(\displaystyle K=\frac{[C]^c[D]^d}{[A]^a[B]^b}\)
この式で表される関係のことを、化学平衡の法則、または、質量作用の法則といいます。また、ここでの平衡定数\(K\)は物質の濃度によって表されたものであるので、濃度平衡定数とも呼ばれます。
平衡定数の単位は、この関係式を見てわかるように反応式の係数によって変わります。
2.2.2 圧平衡定数
一定温度で平衡状態にある
\(aA + bB ⇄ cC + dD\)
のすべての物質が気体であるとき、気体\(A\)、\(B\)、\(C\)、\(D\)のそれぞれの分圧\(p_A\)、\(p_B\)、\(p_C\)、\(p_D\)を用いて次のような関係式を得ることができます。
\(\displaystyle K_p=\frac{{p_C}^c・{p_D}^d}{{p_A}^a・{p_B}^b}(RT)^{a+b-c-d}\)
ここでの\(K_p\)のことを圧平衡定数といいます。圧平衡定数も濃度平衡定数同様に温度や反応の種類によって変わります。急に\(RT\)という関数が出てきてびっくりする人もいると思いますが、なぜこのような関数が出てくるのかは2.2.4で詳しく解説します。
2.2.3 気体と固体が共存するとき
同一の反応式中に気体と固体とが共存する平衡反応では、固体物質の量はその平衡には影響を与えず、化学平衡の法則は、固体物質の濃度を式から除き気体物質の濃度のみで表します。
例えば、固体の炭素と水が反応し、一酸化炭素と水素が生成する反応を考えます。この反応の反応式は次のようになります。
\(C(固) + H_2O(気) ⇄CO(気) + H_2(気)\)
この反応の平衡定数は
\(\displaystyle K=\frac{[CO(気)][H_2(気)]}{[H_2O(気)]}\)
となります。
2.2.4 濃度平衡定数と圧平衡定数の関係
2.2.1で説明した濃度平衡定数から2.2.2で説明した圧平衡定数を導き出すことができます。ここでは、この導き方を解説していきます。
まず、一定温度で次の反応が平衡状態に達しているとします。ただし、この反応に関与するすべての物質が気体であったとします。
\(aA + bB ⇄ cC + dD\)
この反応の濃度平衡定数は
\(\displaystyle K=\frac{[C]^c[D]^d}{[A]^a[B]^b}‥‥①\)
とすることができます。
また、反応が起こった時の温度を\(T\)、気体定数を\(R\)、反応物質のモル濃度を\(C\)、分圧を\(P\)とすると気体の状態方程式より
\(P=CRT\)
が得られます。
ここで、気体\(A\)、\(B\)、\(C\)、\(D\)のそれぞれの分圧を\(p_A\)、\(p_B\)、\(p_C\)、\(p_D\)としたとき、これらが温度\(T\)で反応したとすれば気体の状態方程式より以下の4つの式を得ることができます。((\[A]\)は物質\(A\)のモル濃度)
\(\begin{align}
\\
\displaystyle [A] &=\frac{p_A}{RT} \\
\\
[B] &=\frac{p_B}{RT} \\
\\
[C] &=\frac{p_C}{RT} \\
\\
[D] &=\frac{p_D}{RT} \\
\\
\end{align}\)
これらの式を①式に代入すると、
\(\begin{align}
\\
\displaystyle K &=\frac{(\frac{p_C}{RT})^c・(\frac{p_D}{RT})^d}{(\frac{p_A}{RT})^a・(\frac{p_B}{RT})^b} \\
\\
&=\frac{{p_C}^c・{p_D}^d}{{p_A}^a・{p_B}^b}(RT)^{a+b-c-d} \\
\\
\end{align}\)
となり、圧平衡定数を得ることができます。このように導けば\(RT\)が出てくる意味が分かると思います。
この式から、右辺の反応の係数と左辺の反応の係数(ここでは、右辺の反応の係数は\(a\)、\(b\)で、左辺の反応の係数は\(c\)、\(d\)となります。)が等しくなる、つまり\(a+b=c+d\)となれば圧平衡定数は気体定数\(R\)や温度\(T\)に依存しない関数になることがわかります。
3. 計算問題
ここでは、化学平衡を用いた計算問題を紹介します。
水素とヨウ素を密閉容器に入れ、一定温度の下で放置すると、反応して次の平衡状態になる。
\(H_2(気) + I_2(気) ⇄2HI(気)\)
このとき、以下の問いに答えよ。
(1) 水素\(0.8 mol\)とヨウ素\(0.8 mol\)を\(V〔L〕\)の密閉容器に入れ反応させたとき、ヨウ化水素が\(1.2 mol\)生成した。この時の平衡定数\(K\)を求めよ。
(2) (1)の反応と同じ温度で水素\(1.2 mol\)とヨウ素\(1.2 mol\)を\(V〔L〕\)の密閉容器に入れ反応させた。この反応で生成したヨウ化水素の物質量を求めよ。また、反応後に残った水素とヨウ素の物質量を求めよ。
【解答】
(1)
まず、水素\(0.8 mol\)とヨウ素\(0.8 mol\)からヨウ化水素が\(1.2 mol\)生成したことから反応前後での物質量の変化を考えると、
このようになります。これをもとに、水素、ヨウ素、ヨウ化水素のモル濃度を求めるとそれぞれ
\(\begin{align}
\\
\displaystyle [H_2] &=\frac{0.2}{V} \\
\\
[I_2]&=\frac{0.2}{V} \\
\\
[HI]&=\frac{1.2}{V} \\
\\
\end{align}\)
となります。また、この反応の平衡定数\(K\)は
\(\displaystyle K=\frac{[HI]^2}{[H_2][I_2]}\)
と表せるからそれぞれの濃度を代入すると、
\(\begin{align}
\\
\displaystyle K &=\frac{(\frac{1.2}{V})^2}{\frac{0.2}{V}\times \frac{0.2}{V}}\\
\\
&=36 \\
\\
\end{align}\)
が得られるので、平衡定数は\(K=36\)となります。
答‥K=36
(2)
まず、生成したヨウ化水素の物質量を\(2x〔mol〕\)とおいて(1)と同じように反応前後での物質量の変化を考えると、
となります。
この反応は(1)と同じ温度で行われたので、平衡定数は(1)と等しくなり\(36\)とわかります。
したがって、化学平衡の法則の式に濃度、平衡定数を代入すると、
\(\begin{align}
\\
\displaystyle K &=\frac{(\frac{2x}{V})^2}{\frac{1.2-x}{V}\times \frac{1.2-x}{V}}\\
\\
36 &= \frac{(2x)^2}{(1.2-x)^2}\\
\\
\end{align}\)
ここで、\(0<x<1.2\)が成り立つので、右辺、左辺ともに正になるはずだから
\(\displaystyle 6 =\frac{2x}{1.2-x}\)
とすることができます。これより、\(x\)について解くと、\(x=0.9〔mol〕\)と求まります。
よって、生成したヨウ化水素の物質量は\(1.8〔mol〕\)、残っている水素とヨウ素の物質量はともに\(0.3〔mol〕\)と求めることができます。
答‥ヨウ化水素:1.8〔mol〕,水素:0.3〔mol〕,ヨウ素:0.3〔mol〕
4. ルシャトリエの原理
可逆反応が平衡状態にあるとき、外部からの影響で濃度、圧力、温度などの条件を変化すると、平衡はその変化を和らげる方向に移動します。このような規則性のことをルシャトリエの原理といいます。
以下では、濃度、圧力、温度、触媒のそれぞれの条件を変化させたとき、平衡がどのように移動するのか解説していきます。
4.1 濃度が変化したとき
まずは、濃度が変化したときを考えましょう。
4.1.1 \(N_2 + 3H_2 ⇄2NH_3\)
\(N_2 + 3H_2 ⇄2NH_3\)
この反応が平衡状態に達しているときに、次の操作を行うとどのような変化が起こるでしょうか。
①窒素\(N_2\)を加える
ルシャトリエの原理は「条件が変化したときにその変化を和らげる方向に平衡が移動する」ものでした。
窒素\(N_2\)を加えたとき、平衡は窒素を減らす方向に平衡が移動します。つまり、右方向に平衡が移動します。
これを化学平衡の法則から考えてみましょう。
この反応では次の式が成り立ちます。
\(\displaystyle K=\frac{[NH_3]^2}{[N_2][H_2]^3}(Kは平衡定数)\)
この反応では、温度を一定にして窒素を加えています。したがって、平衡定数\(K\)は一定となります。この状態で窒素を加えると\([N_2]\)の値が大きくなるので、平衡定数が小さくなってしまいます。これをもとの値に戻すためには、分子を大きくする必要があります。そのため、\([NH_3]\)を大きくする方向、右方向に平衡が移動するのです。
②水素\(H_2\)を取り除く
水素\(H_2\)を加えたとき、平衡は水素を増やす方向に平衡が移動します。つまり、左方向に平衡が移動します。
4.1.1 \(NaCl(固) ⇄Na^+ + Cl^-\)
\(NaCl(固) ⇄Na^+ + Cl^-\)
塩化ナトリウムの飽和水溶液と塩化ナトリウムの結晶が共存して、上の式で表される溶解平衡が成り立っているとします。
この飽和水溶液に塩化水素\(HCl\)(気)を通じたとすると、\(HCl\)が水に溶けて電離する(\(HCl→H^+ + Cl^-\))ので\([Cl^-]\)が大きくなります。そのため、平衡は\([Cl^-]\)が減少する方向、つまり左方向に移動し、\(NaCl\)の結晶が析出します。
このように、水溶液中に存在するイオンと同じイオンを加えることによっておこる平衡移動のことを共通イオン効果といいます。
4.2 圧力が変化したとき
一般的に、気体分子の総数が多くなると圧力は高くなり、気体分子の総数が少なくなると圧力は小さくなります。これをもとに、平衡状態にある可逆反応の圧力を変化させたときどのように平衡が移動するの考えてみましょう。
平衡混合気体を圧縮することによって、圧力を増加させたとき、大きくなった圧力を減少させるために気体分子の総数が減る方向に平衡が移動します。また、圧力を減少させたときは、小さくなった圧力を増加させるために気体分子の総数が増える方向に平衡が移動します。
では、実際に具体的な反応でどのような変化が起こるのか見ていきましょう。
4.2.1 \(2NO_2 ⇄N_2O_4\)
\(2NO_2 ⇄N_2O_4\)(常温、注射器中)
この反応が平衡状態に達しているとき、温度一定で次の操作を行ったときどのような変化が起こるでしょうか。(ただし、\(NO_2\)は赤褐色、\(N_2O_4\)は無色であるということに注意してください。)
①混合気体の圧力を増加させたとき
温度一定で注射器のピストンを押して圧力を加えたとき、瞬間的に赤褐色が濃くなります。これは、加圧された瞬間は\(NO_2\)の濃度が一気に大きくなるからです。
しかし、そのあと時間がたつと色が薄くなります。これは、気体分子の総数が減少する方向、つまり右方向に平衡が移動したからです。
この反応で左辺、右辺の気体分子の総数を比べると左辺は\(NO_2\)の係数が2、右辺は\(N_2O_4\)の係数が1で右辺の方が気体分子の総数が小さくなります。したがって、右方向に平衡は移動するのです。
②混合気体の圧力を減少させたとき
圧力を減少させたとき、瞬間的に赤褐色が薄くなります。これは、減圧された瞬間は\(NO_2\)の濃度が一気に小さくなるからです。
しかしその後、そのあと時間がたつと色が濃くなります。これは、気体分子の総数が増加する方向、つまり左方向に平衡が移動したからです。
4.2.2 \(H_2(気) + I_2(気) ⇄2HI(気)\)
\(H_2(気) + I_2(気) ⇄2HI(気)\)
この可逆反応が平衡状態に達しているとき、温度一定で混合気体の圧力を変化させるとどのような変化が起こるでしょうか。
圧力は右辺、左辺の気体分子の総数に関連して平衡が移動すると説明しましたね。では、この反応の反応式の係数を見てみましょう。
左辺では、水素\(H_2\)の係数は1、ヨウ素\(I_2\)の係数は1であるので左辺の係数は合わせて2になります。また、右辺では、ヨウ化水素\(HI\)の係数が2となります。
これより、左辺の係数と右辺の係数を比べるとともに2で等しくなります。このように、両辺の係数が等しくなる時は圧力を変化させても両辺で気体分子の総数が変化しないため、平衡は移動しません。
4.2.3 \(C(黒) + CO_2(気) ⇄2CO(気)\)
\(C(黒) + CO_2(気) ⇄2CO(気)\)
この可逆反応が平衡状態に達しているとき、温度一定で次の操作を行うとどのような変化が起こるでしょうか。
①混合気体の圧力を増加させたとき
この反応には固体が関与しますが、固体は圧力には関係しません。したがって、平衡の移動を考える際には固体(ここでは黒鉛\(C\))を除いて考えることができます。
左辺と右辺の係数を比較すると、左辺では、二酸化炭素\(CO_2\)の係数が1、一酸化炭素\(CO\)の係数が2となります。よって、気体の圧力を増加させたとき、気体分子の総数を減少させる方向、つまり左方向に平衡が移動します。
②混合気体の圧力を減少させたとき
①と同様に黒鉛\(C\)を除いて考えます。気体の圧力を減少させたとき、気体分子の総数を増加させる方向、つまり右方向に平衡が移動します。
4.2.4 \(N_2 + 3H_2 ⇄2NH_3\)
\(N_2 + 3H_2 ⇄2NH_3\)
この可逆反応が平衡状態に達しているとき、次の操作を行うとどのような変化が起こるでしょうか。
①温度・体積一定でアルゴン\(Ar\)を加えたとき
\(Ar\)を加えても、この可逆反応に\(Ar\)は関わりがありません。したがって、\(N_2\)、\(H_2\)、\(NH_3\)の物質量は変化しません。ここでは、温度、体積は一定であるので\(N_2\)、\(H_2\)、\(NH_3\)それぞれの分圧が変わらず、それらの和である平衡混合気体の圧力も変わりません。したがって、この反応に関与する気体の圧力は変化しないので平衡は移動しません。
②温度・全圧一定でアルゴン\(Ar\)を加えたとき
温度・全圧一定で\(Ar\)を加えると、\(N_2\)、\(H_2\)、\(NH_3\)それぞれの分圧は減少し、それらの和である平衡混合気体の圧力も減少します。したがって、平衡は気体分子の総数が増加する方向、つまり左方向に移動します。(左辺の係数は、\(N_2\)の係数の1と\(H_2\)の係数の3を合わせて4、右辺の係数は、\(NH_3\)の係数の2であるから、左辺の係数>右辺の係数、つまり気体分子の総数は左辺の方が大きくなる。)
4.3 温度が変化したとき
一般に、可逆反応が平衡状態に達しているとき、温度を上げると吸熱反応が起こる向きに平衡が移動します。また、温度を下げると発熱反応が起こる向きに平衡が移動します。
実際に、例を挙げて考えてみましょう。
\(N_2 + 3H_2 =2NH_3 +92 kJ\)
この可逆反応が平衡状態に達しているとき、次の操作を行うとどのような変化が起こるでしょうか。
①温度を上げたとき
ルシャトリエの原理より、平衡は温度を下げる向きに移動します。つまり、吸熱反応(熱を吸収することで温度が下がる。)となる向きに移動するのです。この反応では、右向きが発熱反応となっているので左向きの反応が吸熱反応となります。したがって、温度を上げたとき平衡は左向きに移動します。
②温度を下げたとき
ルシャトリエの原理より、平衡は温度を上げる向きに移動します。つまり、発熱反応(熱を放出することで温度が上がる。)となる向きに移動するのです。この反応では、右向きが発熱反応となっています。したがって、温度を下げたとき平衡は右向きに移動します。
4.4 触媒を加えたとき
触媒を加えることによって、可逆反応において、正反応、逆反応の活性化エネルギーが小さくなります。そのため、正反応、逆反応ともに反応速度が大きくなります。
このとき、正反応の反応速度と逆反応の反応速度の大きくなる割合は等しくなります。よって、触媒がある場合には、触媒がない場合に比べ、平衡状態に達するまでにかかる時間は短くなりますが、到達する平衡状態は触媒がある場合も触媒がない場合も同じになります。そのため、平衡状態に達している可逆反応に触媒を加えても平衡は移動しません。
5. まとめ
最後に化学平衡の法則についてまとめておこうと思います。
可逆反応‥左辺から右辺への反応と右辺から左辺への反応の両方が起こる反応
不可逆反応‥一方向にしか反応が進まない反応
一定温度で平衡状態にある
\(aA + bB ⇄ cC + dD\)
において次の関係式が成り立つ。
\(\displaystyle K=\frac{[C]^c[D]^d}{[A]^a[B]^b}\)
この関係式が成り立つことを化学平衡の法則といい、\(K\)を平衡定数(濃度平衡定数)という。
また、反応する物質のすべてが気体のとき、次の関係式が成り立つ。
\(\displaystyle K_p=\frac{{p_C}^c・{p_D}^d}{{p_A}^a・{p_B}^b}(RT)^{a+b-c-d}\)
このときの\(K_p\)を圧平衡定数という。
ルシャトリエの原理‥可逆反応が平衡状態にあるとき、外部からの影響で濃度、圧力、温度などの条件を変化すると、平衡はその変化を和らげる方向に移動するという規則性のこと
平衡定数に関する問題やルシャトリエの原理はしっかりと規則性を理解していれば難しくないはずです。
特に、ルシャトリエの原理は各条件を変化させたときにそれぞれどのように変化するのかしっかり頭に入れておいてください。
理解できました!ありがとうございます^ ^