熱サイクルと熱効率の超解説(公式と求め方)

東大塾長の山田です。

このページでは、熱サイクルと熱効率」について詳しく説明しています
熱サイクルの熱力学第一法則から熱効率の計算方法、カルノーサイクルについても丁寧に説明しているので、この分野の包括的な理解が可能です

ぜひ勉強の参考にしてください!

1. 熱効率について

いまから、熱効率について解説していきますが、熱効率の説明に入る前に、前提知識として「熱サイクル」「熱機関」についてしっかりとした説明を行いたいと思います。

1.1 熱サイクルと熱機関

作業物質に一連の変化(加熱・放熱・断熱変化など)を施して、初めの状態に戻す変化のことを、「熱サイクル」といいます。

P-Vグラフに熱力学的サイクルを描くと、下図のような閉曲線であらわされます。

また、熱サイクルを繰り返して運転させて熱を仕事に変えるものを「熱機関」といいます。

例えば、高温物体(燃料)から熱を受け取って、その一部を仕事に、残りが低温物体(冷却器)に逃げていくようなものは、熱機関と言えます。

 

1.2 熱サイクルにおける熱力学第一法則

次に熱サイクルにおける、熱力学第一法則について考えていきましょう。

一般の熱サイクルは、下図のように \( n \) 個の工程からなります。

熱力学第一法則(導入)

各工程での熱力学第一法則は、高温熱源から与えられた熱量を\(Q_i\)、作業物質が外部にした仕事を\(W_i\)、内部エネルギー変化を \( \Delta U_i \) とすれば、

\( \displaystyle  \Delta U_i=-W_i+Q_i\quad(i=1,2,\ldots,n) \)

と書くことができ、熱サイクル全工程における熱力学第一法則は、各工程の和を考えればよいから、

\( \displaystyle \sum_{i=1}^{n} \Delta U_{i}=-\sum_{i=1}^{n} W_{i}+\sum_{i=1}^{n} Q_{i} \)

とできます。

 

内部エネルギー変化

ここで、作業物質は最初の状態に戻っているので、最初と最後で結局温度変化はなく、内部エネルギー変化も0とできます。したがって

\( \displaystyle \sum_{i=1}^{n} \Delta U_{i}=0 \)

とできます。

 

正味の仕事

次に仕事の和についてですが、膨張過程においては外部に正の仕事をして、圧縮過程においては外部から仕事をされるので、

\( \displaystyle \sum_{i=1}^{n} W_{i}=\left(外にした仕事\right)-\left(外からされる仕事\right) \)

とでき、この式で表される量のことを「正味の仕事」といい、以下では \( W_{cycle} \) と表記します。

<strong>超重要!</strong>正味の仕事の求め方

もちろん熱力学第一法則に登場してくる \( \displaystyle \sum_{i=1}^{n} W_{i} \) を各過程の仕事を求めることで導出できれば良いのですが、もっと簡単に求める方法もあります。

正味の仕事の定義は、先ほど説明したように

\( \displaystyle W_{cycle}=\left(外にした仕事\right)-\left(外からされる仕事\right) \)

となっており、外にした仕事と外からされた仕事は、それぞれ下図の射線の面積で表されます。

よって、\( W_{cycle} \) は下図の射線部の面積で現れることが分かります。

結局、物質がした正味の仕事は、サイクルで囲まれた部分の面積で表すことができます!

上の例の場合、正味の仕事は正になりますが、矢印の向きが逆の場合は全く逆の結果になることにも注意です。

これは超重要事項なので必ず頭に入れておきましょう!

 

吸熱・放熱過程

仕事と同様に、\( Q_i \) には正のもの(吸熱過程)と負のもの(放熱過程)があり、その中で正のものの和(実際の吸熱量)を \( Q_{in} \)、負のものの絶対値の和(実際の放熱量)を \( Q_{out} \) とすると、

\( \displaystyle \sum_{i=1}^{n} Q_{i}=Q_{in} -Q_{out} \)

とすることができます。

 

熱力学第一法則(結果)

以上を踏まえると、熱サイクルにおける熱力学第一法則は、

\( \displaystyle 0=-W_{cycle}+=Q_{in} -Q_{out}\quad W_{cycle}=Q_{in} -Q_{out} \)

と書き下すことができます!

イメージがつきやすいように具体例で説明すると、\( Q_{in} \) は燃料などの高温物体から得られる熱で、\( Q_{out} \) は冷却器で外に逃げていく熱や、排気ガスとともに捨てられる熱です。

\( Q_{out} \) はまったく無駄になってしまう熱です。

 

1.3 熱効率の定義

上の熱力学第一法則では、下図のように \( Q_{in} \) の一部が仕事 \( W_{cycle} \) に変わり、残りが \( Q_{out} \) として外部に逃げてしまうことが分かりました。

そこで、この熱機関の能力を指し示す「熱効率」を以下のように定義してみましょう。

熱効率の定義

\( \displaystyle 熱効率 e = \frac{W_{cycle}}{Q_{in}} = 1 – \frac{Q_{out}}{Q_{in}} \)

これは、「実際に吸収した熱量に対してそれだけの仕事をするか」を表している量で、「吸熱量に対して放熱量が小さいほど熱効率が大きくなる」こともわかります。

 

熱効率の最大値って?

熱効率は、その定義からわかるように決して1を超えることはありませんが、\(e=1\)になることはあるのでしょうか?

結論を言ってしまえば、熱効率は決して1になることもありません。

これは熱力学第二法則「一つの熱源から正の熱を受け取り、これを全て仕事に変える以外に,他に何の変化もおこさないようにするサイクルは存在しない(トムソンの法則とも呼ばれる)。」により説明できます。

 

2. カルノーサイクル

ここでは、入試の題材にもなりやすい熱サイクルである「カルノーサイクル」について扱います。
入試で扱われることが多いだけあって、カルノーサイクルは熱サイクルの中でも大きな意味を持ちます
それについて順を追って議論していきましょう。

2.1 カルノーサイクルとは

カルノーサイクルとは「温度の異なる二つの熱源の間で動作する可逆熱サイクル」のことで、P-Vグラフで表すと下図のようになります。

上図のオレンジ線は等温変化青線は断熱変化を表しており、言葉で説明すると以下のようになります。

A⇒B:温度 \( T_H \) の恒温熱源に接したまま気体の体積を \( V_A \) から \( V_B \) まで膨張させる。

B⇒C:体積を \( V_B \) から \( V_C \) まで断熱的に膨張させて、温度を \( T_H \) から \( T_L \) まで冷却させる。

C⇒D:温度 \( T_L \) の恒温熱源に接したまま気体の体積を \( V_C \) から \( V_D \) まで圧縮させる。

D⇒A:温度が \( T_H \) に戻るまで断熱的に圧縮し、体積を \( V_A \) とする。

このように定義されるカルノーサイクルについて考察していきましょう!

 

2.2 カルノーサイクルの熱効率

それでは熱効率を求めていきましょう。各過程においてしっかりとした議論を行うことが大切です

以下では、\( n \) [mol]の理想気体について扱います。

状態方程式

各状態における、理想気体の状態方程式は以下のようになります。

\( \begin{cases}
\displaystyle P_{A} V_{A} = n R T_{H} \\
\displaystyle P_B V_{B} = n R T_{H} \\
\displaystyle P_C V_C = n R T_{L} \\
\displaystyle P_{D} V_{D} = n R T_{L}
\end{cases} \)

 

状態A⇒B

等温変化より、内部エネルギー変化

\( \displaystyle \Delta U_{AB}=0 \)

気体が外部にした仕事は、P-Vグラフの面積で定義されるから、

\( \begin{align}
\displaystyle W_{AB} & = \int P d V \\
\\
& = \int_{V_{A}}^{V_{B}} \frac{n R T_{1}}{V} d V \\
\\
 ∴ \ W_{AB} &=n R T_{H} \log \left(\frac{V_{B}}{V_{A}}\right)
\end{align} \)

熱力学第一法則 \( \Delta U = – W+Q \) かつ、\( \Delta U_{AB}=0 \) より、

\( \displaystyle Q_{AB}=W_{AB} = n R T_{H} \log \left(\frac{V_{B}}{V_{A}} \right) \)

\( V_B > V_A \) より、\( \displaystyle \log \left( \frac{V_{B}}{V_{A}} \right) > 0 \) となるから、\( Q_{AB} > 0 \) となることが分かります。

したがってA⇒Bは吸熱反応です

 

状態B⇒C

断熱変化ゆえ、

\( \displaystyle Q_{BC}=0 \)

内部エネルギー変化は、

\( \displaystyle \Delta U_{BC} = nC_V\left( T_L -T_H \right) \)

熱力学第一法則 \( \Delta U=-W+Q \) かつ、\( Q_{BC} = 0 \) より、

\( \displaystyle W_{BC} = – \Delta U_{BC} = nC_V \left( T_H -T_L \right) \)

「断熱変化なんだからポアソンの公式も使うんじゃないの?」と思った人はきちんと勉強できている証拠です。

もちろん用いるのですが、熱効率の計算の際に改めて考えた方が、いちいち見返さなくて済むので、あとで用いることにします。

 

状態C⇒D

等温変化ゆえ、内部エネルギー変化

\( \displaystyle \Delta U_{CD}=0 \)

気体が外部にした仕事は、P-Vグラフの面積で求められるから、

\( \begin{align}
W_{CD} &=\int P d V \\
\\
&=\int_{V_{C}}^{V_{D}} \frac{n R T_{L}}{V} d V \\
\\
∴ \ W_{CD} &=n R T_{L} \log \frac{V_{D}}{V_{C}}
\end{align} \)

熱力学第一法則 \( \Delta U=-W+Q \) かつ、\( \Delta U_{CD} = 0 \) より、

\( \displaystyle Q_{CD} = W_{CD} = n R T_{L} \log \frac{V_{D}}{V_{C}} \)

\( V_C > V_D \) より、\( \displaystyle \log \left( \frac{V_{D}}{V_{C}} \right) < 0 \) となるから、\( Q_{CD} < 0 \) となることが分かります。

したがってC⇒Dは放熱反応です

 

状態D⇒A

断熱変化ゆえ、

\( \displaystyle Q_{DA}=0 \)

内部エネルギー変化は、

\( \displaystyle \Delta U_{DA} = nC_V\left( T_H -T_L \right) \)

熱力学第一法則 \( \Delta U=-W+Q \) かつ、\( Q_{DA} = 0 \) より、

\( \displaystyle W_{DA}=-\Delta U_{DA} = nC_V\left( T_L -T_H \right) \)

 

熱効率

結局全過程の中で吸熱過程だったのは、A⇒Bのみで、仕事の総和は \( \displaystyle W_{AB}+W_{BC} + W_{CD} + W_{DA} \) で表記できるので、求める熱効率 \( e \) は

\( \begin{align}
\displaystyle e & = \frac{W_{AB}+W_{BC}+W_{CD}+W_{DA}}{Q_{A B}} \\
\\
& = \frac{W_{AB}+W_{CD}}{Q_{AB}} \\
\\
& = \frac{Q_{AB}+Q_{C D}}{Q_{AB}} \\
\\
& = 1 + \frac{Q_{C D}}{Q_{A B}} \\
\\
& = 1 + \frac{T_{L} \log \frac{V_{D}}{V_{C}}}{T_{H} \log \frac{V_{B}}{V_{A}}} \cdots ☆
\end{align} \)

と計算できます。ここで断熱変化のときに成り立つポアソンの公式を思い出してみましょう。

B⇒C と D⇒A は断熱変化より、ポアソンの公式が成り立つから

\( \begin{cases}
\displaystyle T_H V_B^{\gamma -1}=T_L V_C^{\gamma -1}=\rm{const.} \\
\displaystyle T_L V_D^{\gamma -1}=T_H V_A^{\gamma -1}=\rm{const.}
\end{cases} \)

\( \displaystyle ∴ \ \frac{V_{B}}{V_{A}}=\frac{V_{C}}{V_{D}} \)

これを☆に代入すると、

\( \begin{align}
\displaystyle e & = 1 + \frac{T_{L} \log \frac{V_{D}}{V_{C}}}{T_{H} \log \frac{V_{B}}{V_{A}}} \\
\\
& = 1 + \frac{-T_{L} \log \frac{V_{B}}{V_{A}}}{T_{H} \log \frac{V_{B}}{V_{A}}} \\
\\
∴ \ e & = 1 – \frac{T_{L}}{T_{H}}
\end{align} \)

カルノーサイクルの熱効率

\( \displaystyle1 e = 1 – \frac{T_{L}}{T_{H}} \)

実は、これが作業物質の種類によらず温度\(T_H\)と\(T_L\)の間で働く熱機関の最大効率であることが、カルノーの定理によって明らかになっています。(証明略)

このようにカルノーサイクルは熱サイクルの中でも特別な意味を持っているのです。

 

3. まとめ

以上です。最後に今回学んだことをまとめておくので、復習に役立ててください!

熱効率まとめ

熱サイクルにおける熱力学第一法則:\( \displaystyle W_{c y c l e}=Q_{i n}-Q_{o u t} \)

熱効率の定義:\( \displaystyle e = \frac{W_{c y c l e}}{Q_{i n}} = 1 \frac{Q_{o u t}}{Q_{i n}} \)

 

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