東大塾長の山田です。
このページでは「水素結合」について解説しています。
水素結合は分子間力の中で特徴的な結合で、これに関する問題がよく出題されます。このような問題に対応できるようにこの記事では説明しています。是非参考にしてください。
1. 水素結合とは?
\({\rm F}\)、\({\rm O}\)、\({\rm N}\)と結合している\({\rm H}\)と、別の分子の\({\rm F}\)、\({\rm O}\)、\({\rm N}\)との結合のことを水素結合といいます。(下の図の点線が水素結合)
「\({\rm F}\)、\({\rm O}\)、\({\rm N}\)」は\({\rm H}\)と比べて非常に電気陰性度が高くなります。電気陰性度は自分の方に電子を引っ張る強さのことなので、水分子を例にすると分子中に存在する\({\rm H}\)と\({\rm O}\)の結合に使われている電子はより電気陰性度の大きい\({\rm O}\)原子の方に引っ張られることになります。(電気陰性度については、「電気陰性度とは(覚え方・周期表・一覧表)」の記事を参照してください。)
この結果、\({\rm H}\)原子はプラスに、\({\rm O}\)原子はマイナスに帯電するので、隣の同分子と静電引力に基づく結合が形成されます。
この静電引力による結合を水素結合と呼ぶのです。
水素結合の引力は、一般的な極性分子間で働く静電気的な引力に比べるとずっと大きくなります。一方で、水素結合は、共有結合やイオン結合、金属結合よりはるかに弱く、それらの化学結合よりは切断されやすいです。
共有結合>イオン結合>金属結合>>水素結合>ファンデルワールス力
2. 水素結合する分子の例
水素結合するのは、\({\rm F}\)、\({\rm O}\)、\({\rm N}\)が関わるものです。
\({\rm HF}\)、\({\rm H_2O}\)、\({\rm NH_3}\)はもちろんですが、それ以外にも\({\rm H}\)ー\({\rm F}\)、\({\rm H}\)ー\({\rm O}\)、\({\rm H}\)ー\({\rm N}\)の結合を持つものは水素結合をします。
具体的な例を挙げると
このように、\({\rm H}\)ー\({\rm F}\)、\({\rm H}\)ー\({\rm O}\)、\({\rm H}\)ー\({\rm N}\)があれば、水素結合をします。
ちなみに、DNAは2本のヌクレオチド鎖が対になってらせん構造をしているのですが、この二重らせん構造は塩基同士が水素結合しているものです。
ここで、電気陰性度について考えると、窒素\({\rm N}\)と塩素\({\rm Cl}\)の電気陰性度が同じなのに\({\rm HCl}\)は水素結合をしません。これについて、解説しましょう。
電気陰性度の大きさは、\({\rm F}>{\rm O}>{\rm N}={\rm Cl}\)です。\({\rm N}\)も\({\rm Cl}\)も同じ大きさなのに、\({\rm NH_3}\)は水素結合しますが、\({\rm HCl}\)は結合しません。
これは、塩素原子が窒素原子よりも一周期大きく原子半径の表面積が大きくなるからです。表面積が大きくなると、表面積の電子の密度が小さくなります。すると、δ–が小さくなります。
よって、十分な結合が生まれる静電気力が起きないので、原子半径が大きい塩素の水素化合物の塩化水素は水素結合しないのです。
3. 氷と水の構造
氷の構造は次のようになっています。
1つの水分子が他の水分子と方向性のある水素結合を形成することで、正四面体構造になっています(水素結合には方向性があるため一定の方向にしか結合できず、そのため分子同士の距離がある程度離れた形になっています)。この構造の特徴は、隙間の多い構造であるということです。
これに対して、液体の水の構造は次のようになっています。
0℃で氷(水の結晶)から水(液体の水)になるときには、氷の結晶構造を形成している水素結合の一部が切断されて隙間の多い構造が崩れ、自由になった水分子が隙間に入り込みます。そのため、同一質量あたりの体積が減少します。
これより、密度は氷より水の方が大きくなっています。これが原因で氷が水に浮くのです。
普通の物質は固体の方が液体よりも密度が大きくなります。しかし、水の場合は例外であり、出題されることが多いのでしっかり理解してください。
4. 分子間力と沸点
液体が気体になるには、液体を構成する分子は、隣り合う分子との分子間力を断ち切って、液体表面から飛び出せるだけの熱エネルギーをもつ必要があります。すなわち、分子間力が大きい分子性物質の液体ほど蒸発しにくく、、その沸点は高くなります。
そのため、分子の分子量、極性の有無などと物質の沸点の間には、いくつかの傾向があるのでそれをまとめておきます。(極性については、「電気陰性度とは(覚え方・周期表・一覧表)」の記事を参照してください。)
傾向①:類似した構造をもつ分子では、分子量が大きいほど、ファンデルワールス力が強く働く。すなわち、分子量が大きいほど沸点は高くなる。
例:フッ素\({\rm F_2}\)(分子量:38、沸点:-188℃)
塩素\({\rm Cl_2}\)(分子量:71、沸点:-35℃)
傾向②:同程度の分子量をもつ分子では、極性分子の沸点は無極性分子の沸点に比べて高い。これは、極性分子間には静電気的な引力が加わるためである。
例:フッ素\({\rm F_2}\)(分子量:38、沸点:-188℃)
塩化水素\({\rm HCl}\)(分子量:36.5、沸点:-85℃)
傾向③:特に強い極性をもつ分子(無機化合物では、\({\rm NH_3}\)、\({\rm H_2O}\)、\({\rm HF}\)など)は、その分子量から予想される値より、著しく高い沸点を示す。これは、その分子間にファンデルワールス力よりも強い水素結合が働くためである。
例:メタン\({\rm CH_4}\)(分子量:16、沸点:-164℃)
水\({\rm H_2O}\)(分子量:18、沸点:100℃)
ここで、実際に下のグラフを見て、水素化合物の沸点について考えてみましょう。
【1】
14族元素の水素化合物の沸点について考察してみましょう。
上のグラフを見ると、周期の番号が大きくなるほど、つまり、分子量が大きくなるほど、沸点は高くなります。14族元素の水素化合物は、いずれも、正四面体形の無極性分子だから傾向①を示します。
【2】
14族元素の水素化合物の沸点を、同一周期の15~17族元素の水素化合物の沸点と比較し、それについて考察してみましょう。
15~17族元素の水素化合物の沸点は、同一周期で比較すると、14族元素の水素化合物の沸点よりも高い傾向にあります。同一周期では、14~17族元素の水素化合物の分子量は同程度です。しかし、14族元素の水素化合物が無極性分子であるのに対して、15~17族元素の水素化合物は極性分子です。よって、傾向②を示します。
【3】
15~17族元素の第2周期の水素化合物(\({\rm NH_3}\)、\({\rm H_2O}\)、\({\rm HF}\))の沸点を、それぞれと同族の第3~5周期の水素化合物の沸点と比較し、それについて考察してみましょう。
\({\rm NH_3}\)、\({\rm H_2O}\)、\({\rm HF}\)の沸点は、それぞれと同族の他の水素化合物の沸点と比較すると、分子量が最も小さいにもかからわず、著しく高い値を示しています。\({\rm NH_3}\)、\({\rm H_2O}\)、\({\rm HF}\)は特に強い極性をもつ極性分子です。だから、傾向③を示します。
ちなみに、水素結合をしている分子の中でも\({\rm H_2O}\)の沸点が際立って大きくなっているのは、水は1つの分子につき最大4つの水素結合を形成することができるからです。
5. まとめ
最後に、水素結合についてまとめます。
- \({\rm F}\)、\({\rm O}\)、\({\rm N}\)と結合している\({\rm H}\)と、別の分子の\({\rm F}\)、\({\rm O}\)、\({\rm N}\)との結合のことを水素結合という。
- 化学結合の大小は、共有結合>イオン結合>金属結合>>水素結合>ファンデルワールス力となる。
- 氷よりも水の方が密度が大きい。
- 液体が気体になるには、液体を構成する分子は、隣り合う分子との分子間力を断ち切って、液体表面から飛び出せるだけの熱エネルギーをもつ必要がある。すなわち、分子間力が大きい分子性物質の液体ほど蒸発しにくく、、その沸点は高くなる。
水素化合物と沸点のグラフの傾向に関する特徴を記述させる問題が多く出題されます。しかし、水素結合の特徴について理解していれば確実にできると思います。
この記事を読んでしっかりマスターしてください!
液体の水では水素結合がはたらいていても正四面体構造にならないのですか?