剛体のつり合い・力のモーメントの公式・解き方まとめ

東大塾長の山田です。

このページでは剛体のつり合いや力のモーメントについて詳しく説明した後に実際に問題を解いてみることで、学んだ公式の使い方や問題を解く際に注意すべき点などを体系的に効率よく学ぶことができます。

しっかりと解き方が定着できるようになっているので、ぜひ勉強の参考にしてください!

1.剛体のつり合いと力のモーメント

力のモーメントを理解する前に、剛体についてしっかりと理解する必要があります。このセクションでしっかりと理解しましょう!

1.1 剛体と質点の違い

剛体質点という言葉はよく見かけると思いますが二つの明確な違いは何でしょうか?

一般的に、以下のような違いがあります!

質点と剛体の違い

質点:物体を質量をもつ一つの点とみなしたときの点のこと。この一点に色々な力が加わっていると考え、並進運動のみを行う。

剛体質量と大きさを持ち、力による変形を無視できるような物体のこと。剛体にはいくつかの力が働き、それらの作用点は一般的に異なる。並進に加え回転運動も行う。

並進、回転についてはこの後に用語として出てくるので、しっかりと理解しましょう!

 

1.2 力のつり合いとモーメントのつり合い(剛体のつり合いへの導入)

それでは剛体がつりあうのはどのようなときでしょうか?

そもそも剛体におけるつり合っている」というは、並進運動も回転運動も行っていない状態のことです。

 

まずは並進運動を行わない状態について考えてみましょう!

並進運動を行っていないとき、剛体にかかる力は釣り合っていると考えることができます。

力がつりあっているというのは以下のような式が成り立っているときです。

剛体の力のつり合い

ある剛体において、剛体に\(\vec{F_1}\)、\(\vec{F_2}\)、\(\cdots\)、\(\vec{F_n}\)の力が掛かっていてそれらが釣り合うとき、つり合いの式

\[\vec{F_1}+\vec{F_2}+\cdots+\vec{F_{n-1}}+\vec{F_n}=\vec{0}\]

が成立する。

ベクトル表記したことで分かりづらくなったという人もいるかもしれませんが、要はある方向について力のつり合いの式を書けばよい、ということです!

言葉だけではわかりづらいと思うので、以下の例で理解しましょう!

以下の剛体にかかる力がつりあっているときを考えましょう。このとき力のつり合いは

\[F_{1}\cos\beta-F_{2}\cos\alpha=0\]

\[F_{1}\sin\beta-F_{2}\sin\alpha=0\]

といった式で表すことができます!

これが並進運動を行わない条件です!

 

次に回転運動を行わない状態について考えてみましょう!

この状態を扱うにあたり導入する概念が一つあります、力のモーメントです。

力のモーメントとは
 

回転軸の周りに剛体を回転させる能力のことを、力のモーメントといい、

「力の大きさ」×「腕の長さ」

で定義されます。

「腕の長さ」は、回転軸から力の作用線に垂線を下したときの距離のことです。

ただしここで考えられているのは、平面上の剛体であり、力は剛体の面内にあると考えます。 

力のモーメントは、言葉よりも図と式で考える機会が圧倒的に多いので、以下で理解しましょう!

まずは以下の図を考えましょう。ただし、回転軸を\(O\)、力点を\(P\)、力の大きさを\(F\)、\(OP\)の距離を\(L\)、\(O\)から力の作用線に下ろした垂線の長さを\(l\)、\(F\)と\(OP\)のなす角を\(\theta\)とします。

このとき、力のモーメント\(M\)は

\[M=F×l=F×L\sin\theta=FL\sin\theta\]

と表すことができます。

これは力を以下のように分解したと考えてもわかりやすいです!

このときの力のモーメント\(M\)の式は

\[M=F\sin\theta×L=FL\sin\theta\]

となり、どちらの考え方でも同じ結果が得られるので、自分の分かりやすい方で解くと良いでしょう!

 

モーメントについて理解できたところで、が剛体が回転しない条件を求めます!

「力のモーメントとは?」で述べた通り、力のモーメントとは回転軸の周りに剛体を回転させる能力のことです。
だから剛体全体にかかる力のモーメントがゼロのとき、剛体は回転しないことになります。

まとめると以下のようになります。

力のモーメントのつり合い

回転軸をもつ剛体に、力\(\vec{F_1}\)、\(\vec{F_2}\)、\(\cdots\)、\(\vec{F_n}\)がかかっていて、それぞれの力のモーメントを\(M_1\)、\(M_2\)、\(\cdots\)、\(M_n\)とすると、剛体が回転しない条件は

\[M_1+M_2+\cdots+M_n=0\]

となる。ただし、\(M_i\)はそれぞれ正負の符号を含む

これが回転運動を行わない条件です!

 

1.3 剛体のつり合い

上の内容は理解できましたか?

それでは以下に剛体のつり合いの条件を示します!

剛体のつり合い条件

力のつり合い(並進しない):\(\vec{F_1}+\vec{F_2}+\cdots+\vec{F_n}=\vec{0}\)

モーメントのつり合い(回転しない):\(M_1+M_2+\cdots+M_n=0\)

「剛体が静止している」と問題文にあれば、即座にこの2式を書き下せるようにしましょう!

 

1.4 実際に問題を解いてみよう

理解できたかどうか、以下の問題を解いて確認してみましょう!

少し難しめの問題なので、まずは条件式をしっかりとたてる、その次に条件式を基に問題を解く、ということを意識して解きましょう!

慣れていない人の場合、条件式をしっかりとたてられたら上出来です!

解いてみよう!

重さ\(W\)、長さ\(l\)の一様な棒が、その上端に取り付けられた糸によってつるされている。この棒の下端に水平方向の力\(F\)を加えて引っ張り、静止状態にさせる。この状態における、糸と棒が鉛直戦となす角をそれぞれ\(α\)、\(β\)とする。
【問】\(\alpha\)と\(\beta\)の間に成立する関係式を求めよ。(\(W\)と\(l\)には無関係の式)

 

考えてみましたか?難しいと感じる人もいたでしょう。それでは解答です!

解説

まずはどのように力が働くか図示しましょう。糸の張力を\(T\)とします。また、棒が一様であるという条件から、棒の真ん中(重心)に重力がかかると考えることができます。

次に条件式をしっかりとたてましょう。

まずは力のつり合いについて、

水平方向:\(F-T\sin\alpha=0\cdots①\)
鉛直方向:\(W-T\cos\alpha=0\cdots②\)

が成り立ちます。

その次にモーメントのつり合いについてですが、モーメントはどの点の周りについて考えても差し支えないので、できるだけ計算が簡易になるような点を基準にして考えるのが王道です。

今回は未知量である\(T\)が出てこないように計算したいので、棒の上端を基準に取ります。このとき、左回り(反時計回り)を正としたモーメントのつり合いは、

\[F×l\cos\beta-W×\frac{l}{2}\sin\beta=0\cdots③\]

これは力の作用点を以下のように伸ばすとイメージしやすいと思います。

ここまでで条件式はすべて出そろいました!ここまでが物理の問題で後は計算のみです。

①②より

\[F=W\tan\alpha\cdots④\]

③④より

\[F=\frac{W}{2}\tan\beta\]

以上から求める関係式は、

\[\tan\beta=2\tan\alpha\]

皆さん解けたでしょうか?解けた人はしっかりと実力がついてきているでしょう!

実は上の問題を解くにあたって一つ重要なポイントがありました。それはモーメントのつり合いを考えるときの基準点の取り方です。

Point!

モーメントのつり合いを考えるとき、モーメントはどの点の周りについて考えても差し支えないので、できるだけ計算が簡易になるような点を基準にして考える。

計算が簡易になるような点には、未知量が絡んでいる点・多くの力が絡んでいる点などがあります。

このポイントを覚えておくと計算が一気に楽になるので、ぜひ頭に入れておきましょう!

 

2. まとめ

最後に今回扱ったことをまとめておきます!

剛体まとめ

剛体におけるつり合い:並進運動回転運動も行わない状態のこと

剛体における力のつり合い(並進しない):\(\vec{F_1}+\vec{F_2}+\cdots+\vec{F_n}=\vec{0}\)

モーメントのつり合い(回転しない):\(M_1+M_2+\cdots+M_n=0\)

以上です。ここまでしっかりと読んでくださった皆様、お疲れ様でした!

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3件のコメント

質問ですが、①力のベクトルの和がゼロなら並進運動せずに回転運動し
      ②力のモーメントの和がゼロなら回転せずに移動する。と教科書に
      書かれています。  
①は作用点の場所で理解できるのですが②が具体的なイメージ図が浮かびません。
ご教授お願いします。

モーメントは平行方向への力を考えず、腕に対して垂直な力のみを考えるからです。
力を分解してみると、軸に向かってまっすぐ押しているだけなのがわかりますよ。

凄くわかりやすかったです!一点気になったのですが、Wが重さと重力の両方を表している気がします。WとWgなどにすべきではないでしょうか?

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