東大塾長の山田です。
このページでは,「反応熱・熱化学方程式」について解説します。
「反応熱の種類」、「熱化学方程式の作り方」について詳しく解説していくので,是非参考にしてください!
1. 発熱反応と吸熱反応
物質は固有のエネルギーを持っていて、そのエネルギーのことを化学エネルギーと呼びます。
このエネルギーは基本粒子の化学結合や状態に由来するので、化学反応が起こります。
つまり、物質が化学変化をする際には、変化の前後で物質がもつエネルギーの変化があり、熱や光などのエネルギーの出入りがあります。
化学反応のうち、外部に熱を放出する反応のことを発熱反応といいます。
発熱反応の例として挙げられるのが、カイロです。
カイロの袋の中には鉄が入っていて、その鉄が空気中の酸素と反応し、酸化鉄が生成します。このときに発熱が起こるので、カイロは暖かくなるのです。
また、化学反応のうち、外部から熱を吸収する反応のことを吸熱反応といいます。
吸熱反応は市販の瞬間冷却パックや熱さまシートなどに利用されています。
2. 反応熱と熱化学方程式
化学反応にともない発生または吸収される熱量のことを反応熱といいます。
全ての物質は固有の化学エネルギーを持っていると説明しました。
化学反応が起こり、反応物が生成物に変化するとき、反応物がもつ化学エネルギーの総和\(E_{反}\)と生成物がもつ化学エネルギーの総和\(E_{生}\)の差が反応熱\(Q\)となります。
\( \displaystyle Q=E_{反}-E_{生} \)
また、化学反応によって生まれる熱量の出入りを示した化学反応式のことを熱化学方程式といいます。
ここで出入りした熱量が反応熱です。
熱化学方程式では、反応物質と生成物質の間を「=」で結び、発熱反応では正、吸熱反応では負の熱量を反応物質側に書きます。
化学反応式は反応前後の粒子(原子・分子・イオン)の関係を表すので、反応前後の物質は全く異なるものが生成します。
よって、反応式の右辺と左辺は→でつなぎます。
一方、熱化学方程式は反応前後の熱量の関係を表します。
熱量は数値であるので、右辺と左辺で同じ数字について考えているので「=」でつなぎます。
これは、「反応物がもつエネルギーの総和」と「生成物がもつエネルギーの総和と反応熱の代数和」が互いに等しいことを表しています。
熱化学方程式の書き方
では、実際に熱化学方程式の書き方を解説します。
ここでは、水素と酸素から水が生成する反応について考えます。ただし、水の生成熱は \( 286kJ/mol \) とします。
①化学反応式を作る
まず、水素と酸素から水が生成する反応の化学反応式を作ります。
\( \displaystyle 2H_2+O_2→2H_2O \)
②着目する物質の係数を1にする
上で与えられた生成熱は水の生成熱です。したがって、ここでは水に着目するのです。
化学反応式では水の係数は2になっています。よって、化学反応式の両辺を2で割って水の係数を1にします。
このとき、酸素の係数は分数になりますが、問題ありません。
\( \displaystyle H_2+\frac{1}{2}O_2→H_2O \)
③反応式中の→を等号=に変える
②で変形した化学反応式の→の部分を「=」に変えます。
\( \displaystyle H_2+\frac{1}{2}O_2=H_2O \)
④反応熱を書き加える
③の式に反応熱を加えます。
反応熱は化学反応式の右辺に書き加えますが、反応熱の数値の前には、発熱反応なら「+」の符号を、吸熱反応なら「ー」の符号をつけます。
一般に、反応熱の数値には着目する物質1molあたりの熱量を、その単位には \( \rm{kJ/mol} \) を用います。熱化学方程式では、方程式自体が着目する物質1molあたりで表されているので、反応熱の単位には \( \rm{kJ} \) を用います。
水の生成熱は \( 286 \rm{kJ/mol} \) であるから
\( \displaystyle H_2+\frac{1}{2}O_2=H_2O+286 \rm{kJ} \)
⑤物質の状態を明記する。
物質のもつ化学エネルギーは、物質の状態によって異なると説明しました。したがって、エネルギーの関係を表す熱化学方程式では、物質の状態を明記する必要があります。
具体的に、化学式の後に、気体なら(気)または(g)、液体なら(液)または(l)、固体なら(固)または(s)、水溶液なら水(aqua)を略した aq と書き加えます。
また、炭素 \( C \) のように同素体が存在するものについては、\( 25℃ \)、\( 1.013 \times 10^5 \rm{Pa} \) で最も低いエネルギーをもつ安定な同素体を選び、他の同素体と区別できるように示します。
例えば、炭素 \( C \) の場合、黒鉛を選び \( C \) の後に(黒鉛)を書き加えます。
これらを考慮して水の生成に関する熱化学方程式を完成させると、
\( \displaystyle H_2(気)+\frac{1}{2}O_2(気)=H_2O(液)+286 \rm{kJ} \)
となります。
他の熱化学方程式の例は以下の通りです。
【例】
\( \displaystyle ・ \ C(黒鉛)+\frac{1}{2}O_2(気)=CO(気)+111 \rm{kJ} \)
\( \displaystyle ・ \ NaCl(固)+ aq =NaCl aq – 3.9 \rm{kJ} \)
3. さまざまな反応熱
一般に、反応熱に25℃、\( 1.013 \times 10^5 \rm{Pa} \) における、着目する物質1molあたりの熱量(単位は、\( \rm{kJ/mol} \))で表されます。
反応熱には、いくつか種類があります。ここでは、8つの反応熱について解説します。
3.1 燃焼熱
1molの物質が酸素と完全燃焼するときに発生する熱量のことを燃焼熱といいます。
物質の燃焼熱は発熱反応と決まっています。
3.2 生成熱
1molの化合物がその成分元素の単体から生成するときに発生または吸収する熱量のことを生成熱といいます。
生成熱には「発熱反応の場合」と「吸熱反応の場合」があります。
- エチレン(気)の生成熱は \( -52.5 \rm{kJ/mol} \) である。
\( \displaystyle 2C(黒鉛)+2H_2(気)=C_2H_4(気)- 52.5 \rm{kJ} \)
- アンモニア(気)の生成熱は \( 46 \rm{kJ/mol} \) である。
\( \displaystyle \frac{1}{2}N_2(気)+\frac{3}{2}H_2(気)=NH_3(気)+ 46 \rm{kJ} \)
- 二酸化炭素(気)の生成熱は \( 394 \rm{kJ/mol} \) である。
\( \displaystyle C(黒鉛)+O_2(気)=CO_2(気)+ 394 \rm{kJ} \)
ここで、炭素(黒鉛)の燃焼熱と二酸化炭素(気)の生成熱が等しくなっていることに気づくと思います。
これは、熱化学方程式を見ると明らかで、
\( C(黒鉛)+O_2(気)=CO_2(気)+ 394 \rm{kJ} \)
どちらもこの熱化学方程式となります。
着目する物質を炭素とした場合、この熱化学方程式は炭素(黒鉛)の燃焼熱の熱化学方程式、着目する物質を二酸化炭素とした場合、この熱化学方程式は二酸化炭素(気)の生成熱の熱化学方程式とみることができます。
3.3 溶解熱
1molの物質が多量の溶媒に溶解するときに発生または吸収する熱量のことを溶解熱といいます。
化合物の溶解反応には発熱反応の場合と吸熱反応の場合があります。
- 塩化ナトリウム(固)の水への溶解熱は \( -3.9 \rm{kJ/mol} \) である。
\( \displaystyle NaCl(固)+ aq =NaCl aq – 3.9 \rm{kJ} \)
このように、水は \( aq \) と表します。
- 硝酸カリウム(固)の水への溶解熱は \( -34.9 \rm{kJ/mol} \) である。
\( \displaystyle KNO_3(固)+ aq =KNO_3 aq -34.9 \rm{kJ} \)
3.4 中和熱
酸が放出した水素イオン \( \rm{H^+} \) 1mol と塩基が放出した水酸化物イオン \( \rm{OH^-} \) 1mol から 1mol の水 \( \rm{ H_2 O } \) が生成するときに発生する熱量のことを中和熱といいます。
中和熱は発熱反応で、強酸の希薄溶液と強塩基の希薄溶液の中和反応においては、酸や塩基の種類にかかわらず、その値はほぼ \( 56.5 \rm{kJ/mol} \) になります。
希塩酸と薄い水酸化ナトリウム水溶液の中和反応の中和熱は \( 56.5 \rm{kJ/mol} \) である。
\( \displaystyle HCl \ aq + NaOH \ aq = NaCl \ aq + 56.5 \rm{kJ} \)
3.5 水和熱
\(1mol\)のイオン(気)が水和するときに発生する熱量のことを水和熱といいます。
- \(Na^+\)(気)の水和熱は \( 400 \rm{kJ/mol} \) である。
\( \displaystyle Na^+(気)+ aq = Na^+ aq + 400 \rm{kJ} \)
- \( Cl^- \)(気)の水和熱は \( 367 \rm{kJ/mol} \) である。
\( \displaystyle Cl^-(気)+ aq=Cl^- aq + 367 \rm{kJ} \)
3.6 融解熱
1molの物質(固体)がある一定の温度において融解するときに吸収する熱量のことを融解熱といいます。
融解が吸熱をともなう状態変化であることは、熱を加えることで固体が液体に変化することからわかると思います。
固体の \( H_2 O \) の融解熱は \( 6.0 \rm{kJ/mol} \) である。
\( \displaystyle H_2O(固) = H_2O(液) – 6.0 \rm{kJ} \)
3.7 蒸発熱
1molの物質(液体)がある一定の温度において蒸発するときに吸収する熱量のことを蒸発熱といいます。
蒸発が吸熱をともなう状態変化であることは、熱を加えることで液体が気体に変化することからわかると思います。
液体の \( H_2O \) の蒸発熱は \( 44.0 \rm{kJ/mol} \) である。
\( \displaystyle H_2O(液)=H_2O(気)-44.0 \rm{kJ} \)
3.8 昇華熱
1molの物質(固体)がある一定の温度において昇華して気体になるときに吸収する熱量のことを昇華熱といいます。
昇華が吸熱をともなう状態変化であることは、熱を加えることで固体が気体に変化することからわかると思います。
固体の \( C O_2 \)(ドライアイス)の昇華熱は \( 25.0 \rm{kJ/mol} \) である。
\( \displaystyle CO_2(固)=CO_2(気)-25.0 \rm{kJ} \)
4. 反応熱まとめ
最後に反応熱についてまとめます。
- 化学反応のうち、外部に熱を放出する反応のことを発熱反応、外部から熱を吸収する反応のことを吸熱反応という。
- 化学反応にともない発生または吸収される熱量のことを反応熱という。
- 化学反応によって生まれる熱量の出入りを示した化学反応式のことを熱化学方程式という。
- 1molの物質が酸素と完全燃焼するときに発生する熱量のことを燃焼熱という。物質の燃焼熱は発熱反応と決まっている。
- 1molの化合物がその成分元素の単体から生成するときに発生または吸収する熱量のことを生成熱という。生成熱には発熱反応の場合と吸熱反応の場合がある。
- 1molの物質が多量の溶媒に溶解するときに発生または吸収する熱量のことを溶解熱という。化合物の溶解反応には発熱反応の場合と吸熱反応の場合がある。
- 酸が放出した水素イオン \( \rm{ H^+ } \)1molと塩基が放出した水酸化物イオン \( \rm{ OH^- } \)1molから1molの水 \( \rm{ H_2O } \) が生成するときに発生する熱量のことを中和熱という。中和熱は発熱反応で、強酸の希薄溶液と強塩基の希薄溶液の中和反応においては、酸や塩基の種類にかかわらず、その値はほぼ \( 56.5 \rm{ kJ/mol } \) になる。
- 1molのイオン(気)が水和するときに発生する熱量のことを水和熱という。
- 1molの物質(固体)がある一定の温度において融解するときに吸収する熱量のことを融解熱という。
- 1molの物質(液体)がある一定の温度において蒸発するときに吸収する熱量のことを蒸発熱という。
- 1molの物質(固体)がある一定の温度において昇華して気体になるときに吸収する熱量のことを昇華熱という。
熱化学方程式は仕組みが分かっていれば簡単に作ることができます。熱化学方程式を作るところで間違えてしまうと計算問題も間違えてしまいます。
熱化学方程式を用いた計算問題は複雑なものも多いですが、解き方はすごく単純でやりやすいと思います。
ですので、熱化学方程式を立てるところで間違えないようにしっかりマスターしてください!
\( \displaystyle CH_4(気)+2O_2(気)=CO_2(気)+2H_2O(液)+ 891 \rm{kJ} \)
\( \displaystyle C(黒鉛)+O_2(気)=CO_2(気)+394 \rm{kJ} \)