東大塾長の山田です。
このページでは反応速度について解説しています。
計算問題も交えながら解説しています。是非参考にしてください。
1. 反応速度
1.1 反応速度
1.1.1 反応速度とは?
化学反応は、一瞬で終わるようなものではなく、反応物にエネルギーを与え結合を切ったり作ったりする必要ある程度時間がかかります。
化学反応式における1つの物質に注目したとき、単位時間当たりのモル濃度(物質量)の変化量をその物質の反応速度といいます。したがって、反応速度\(v\)は次のように表すことができます。
\(\begin{align} \\
\\
\displaystyle 反応速度 v & =\frac{生成物の濃度の増加量}{反応時間} \\
\\
& または \\
\\
反応速度 v & =\frac{反応物の濃度の減少量}{反応時間} \\
\end{align}\)
ただし、ここでの変化量(増加量、減少量)は絶対値となります。
物質\(A\)が物質\(B\)に変化する化学反応(\(A→B\))を例に考えてみましょう。時刻\(t_1\)における反応物質\(A\)の濃度を\([A]_1\)、生成物質\(B\)の濃度を\([B]_1\)、時刻\(t_2\)における反応物質\(A\)の濃度を\([A]_2\)、生成物質\(B\)の濃度を\([B]_2\)とおきます。このとき、時刻\(t_1\)と時刻\(t_2\)との間の平均の反応速度\(v\)は単位時間当たりの反応物質\(A\)の濃度変化で表すと次のように表せます。
\(\displaystyle v_A=-\frac{[A]_2-[A]_1}{t_2-t_1}=-\frac{\Delta[A]}{\Delta t}‥‥(1)\)
また、単位時間当たりの生成物質\(B\)の濃度変化で表すと次のように表せます。
\(\displaystyle v_B=\frac{[B]_2-[B]_1}{t_2-t_1}=\frac{\Delta[B]}{\Delta t}‥‥(2)\)
(1)式には負の符号がついているのは、\(A\)が反応物質であるため\([A]_2-[A]_1\)や\(\Delta A\)が負の値となってしまうので、\(v\)を正の値にする必要があるからです。
このように表すことができる反応速度は平均の反応速度であり、平均の反応速度\(v(v_A、v_B)\)は、\(\overline{v}(\overline{v_A}、\overline{v_B})\)と表すこともあります。
また、任意の時間における瞬間の反応速度は、横軸を反応時間、縦軸をモル濃度とした曲線を描き、その時間での接線の傾きから求めることができます。
1.1.2 分解速度と生成速度の関係
\(2A →B + C\)という分解反応について考えていきましょう。この分解反応の反応速度は次の3つの式で表されます。
\(\displaystyle v_A=-\frac{\Delta [A]}{\Delta t},v_B=\frac{\Delta [B]}{\Delta t},v_C=-\frac{\Delta [C]}{\Delta t}\)
この式における\(v_A\)は\(A\)の分解速度、\(v_B、v_C\)はそれぞれ\(B、C\)の生成速度です。
それでは\(v_A\)と\(v_B、v_C\)の関係についてみていきましょう。ここでは、\(v_A\)は\(v_B\)や\(v_C\)の値とは一致しません。これは、反応式を見るとわかるように物質\(A\)が\(2 mol\)反応し、\(B\)と\(C\)が\(1 mol\)生成することが原因です。
反応速度は同じ化学反応の中でも物質によって異なり、各物質の反応速度の比は反応式の係数の比と等しくなります。つまり、この反応の反応速度は\(V_A : v_B : v_C=2 : 1 : 1\)となります。
\(v=\frac{1}{2}v_A=v_B=v_C\)
という関係式が成り立ちます。
1.1.3 問題
では、反応速度を使った問題を実際に解いてみましょう。
【解答】
(1)
\(\displaystyle 反応速度 v=\frac{反応物の濃度の減少量}{反応時間}\)
反応速度は上の式のように表せるので、過酸化水素の分解速度\(v\)は
\(\displaystyle v=-\frac{\Delta [H_2O_2]}{\Delta t}\)
となります。過酸化水素は反応物であるので分解速度が正になるように負の符号をつけることを忘れないでください。
この式をもとに平均の分解速度を求めると、
〈\(t=0~20\)〉
\(\begin{align}\\
\\
反応速度 v & =-\frac{0.270-0.450}{20-0}\\
\\
& =9.0 \times 10^{-3}〔mol/(L・s)〕\\
\\
\end{align}\)
〈\(t=20~40\)〉
\(\begin{align}\\
\\
反応速度 v & =-\frac{0.162-0.270}{40-20}\\
\\
& =5.4 \times 10^{-3}〔mol/(L・s)〕\\
\\
\end{align}\)
〈\(t=40~60\)〉
\(\begin{align}\\
\\
反応速度 v & =-\frac{0.0972-0.162}{60-40}\\
\\
& =3.24 \times 10^{-3}〔mol/(L・s)〕\\
\\
\end{align}\)
〈\(t=60~80\)〉
\(\begin{align}\\
\\
反応速度 v & =-\frac{0.0583-0.0972}{80-60}\\
\\
& =1.95 \times 10^{-3}〔mol/(L・s)〕\\
\\
\end{align}\)
答‥t=0~20、9.0×10-3 / t=20~40、5.4×10-3 / t=40~60、3.24×10-3 / t=60~80、1.95×10-3
(2)
まず、反応開始\(60秒\)までに反応に使われた過酸化水素の物質量を求めます。反応開始時に\(0.450 mol/L\)あった過酸化水素が\(60秒\)後に\(0.0972 mol/L\)まで減少したので、
\((0.450-0.0972)\times 0.010=3.528\times10^{-3}〔mol〕\)
これが減少した過酸化水素の物質量です。また、反応式より反応した過酸化水素の物質量と生成した酸素の物質量の比は\(2:1\)となるので、生成した酸素の物質量は
\(3.528 \times 10^{-3}\times \frac{1}{2}≒1.76 \times 10^{-3}〔mol〕\)
答‥1.76×10-3〔mol〕
1.2 反応速度式
1.2.1 反応速度式とは?
密閉容器に水素とヨウ素を入れて一定温度まで加熱したとき次の反応が進みます。
\(H_2 + I_2 →2HI\)
このとき、実験結果よりヨウ化水素が生成する反応速度\(v\)は水素濃度\([H_2]\)、ヨウ素濃度\([I_2]\)の積に比例します。これを式で表すと次のようになります。
\(v=k[H_2][I_2]\)
この式より、ヨウ素の濃度を一定にして水素濃度を2倍にするとヨウ化水素の生成速度は2倍、水素の濃度を一定にしてヨウ素の濃度を2倍にするとヨウ化水素の生成速度は2倍、水素とヨウ素の濃度をそれぞれ2倍にするとヨウ化水素の生成速度は4倍になることがわかります。
このように、反応速度と反応物の濃度の関係を表す式のことを反応速度式といいます。また、反応速度式中の比例定数\(k\)のことを反応速度定数といいます。反応速度定数は、反応の種類ごとに異なり、これは絶対温度や活性化エネルギーによって変化します。また、触媒の有無や種類の違いによっても異なります。(反応速度定数\(k\)の詳しい式については、「活性化エネルギーとは(反応速度・求め方と単位)」の記事で解説しているので是非参考にしてください。)
しかし、反応速度定数は反応物や生成物の濃度には関係がありません。したがって、一度この比例定数を求めてしまえば濃度が変化しても反応速度を求めることができます。一般に反応速度定数は、その他の条件が同じであれば温度が\(10K\)上がると速度定数は\(2~3倍\)になります。
次に、別の反応の反応速度式を見てましょう。
過酸化水素の分解反応
\(2H_2O_2 →2H_2O + O_2\)
の反応速度式は
\(v=k[H_2O_2]\)
であり、過酸化水素の濃度に比例します。
過酸化水素の分解反応では、過酸化水素の係数は2になっていますね。しかし、反応速度式では過酸化水素の濃度の1乗に比例しています。このように、反応速度式は実験的に求められるもので、化学反応式の係数から決めることはできません!
1.2.2 計算問題
1.2.1で反応速度式は化学反応式の係数によらないと説明しました。では、実際にどのように決定するか問題を通してみてみましょう。
物質\(A\)と物質\(B\)と物質\(C\)から物質\(D\)が生成する化学反応において、ある温度で\(A\)と\(B\)の濃度を変えて、反応初期の\(C\)の生成濃度を求める実験1,2,3,4を行った。このとき、次の表を参考に以下の問いに答えよ。ただし、\(D\)の生成速度\(v\)は\(A\)のモル濃度を\([A]\)、\(B\)のモル濃度を\([B]\)、\(C\)のモル濃度を\([C]\)、反応速度定数を\(k\)として\(v=k[A]^x[B]^y[C]^z\)と表せる。
Aの初期濃度〔mol/L〕 | Bの初期濃度〔mol/L〕 | Cの初期濃度〔mol/L〕 | Dの生成速度〔mol/(L・S)〕 | |
実験1 | \(0.15\) | \(0.20\) | \(0.50\) | \(2.0 \times 10^{-3}\) |
実験2 | \(0.30\) | \(0.20\) | \(0.50\) | \(8.0 \times 10^{-3}\) |
実験3 | \(0.15\) | \(0.40\) | \(0.50\) | \(4.0 \times 10^{-3}\) |
実験4 | \(0.30\) | \(0.20\) | \(1.50\) | \(2.4 \times 10^{-2}\) |
(1) 実験1,2,3,4の結果をもとに\(x\)、\(y\)、\(z\)に当てはまる適切な値を求めよ。
(2) 反応速度定数\(k\)を有効数字2桁で求めよ。
【解答】
(1)
表をもとに考えていきましょう。
まず、実験1と実験2を比較すると物質\(A\)の濃度が2倍になっています。このとき、物質\(D\)の生成速度は4倍になっています。つまり、物質\(A\)の濃度が2倍になると、物質\(D\)の生成速度は4倍になるのです。したがって、\(x=2\)が成り立つとわかります。
次に、実験1と実験3を比較すると物質\(B\)の濃度が2倍になっています。このとき、物質\(D\)の生成速度は2倍になっています。つまり、物質\(B\)の濃度が2倍になると、物質\(D\)の生成速度は2倍になるのです。したがって、\(y=1\)が成り立つとわかります。
最後に、実験2と実験4を比較すると物質\(C\)の濃度が3倍になっています。このとき、物質\(D\)の生成速度は3倍になっています。つまり、物質\(C\)の濃度が3倍になると、物質\(D\)の生成速度は3倍になるのです。したがって、\(z=1\)が成り立つとわかります。
これより、\(D\)の生成速度\(v\)は\(v=k[A]^2[B][C]\)となることがわかります。
答‥x=2、y=1、z=1
(2)
(1)より、\(D\)の生成速度\(v\)は\(v=k[A]^2[B][C]\)となることがわかりました。したがって、反応速度定数は\(\displaystyle k=\frac{v}{[A]^2[B][C]}\)であるので、これに実験1の結果を代入し
\(\begin{align} \\
\\
\displaystyle k & =\frac{v}{[A]^2[B][C]} \\
\\
& =\frac{2.0 \times 10^{-3}}{(0.15)^2 \times 0.20 \times 0.50} \\
\\
& ≒0.89〔L^3/(mol^3・s)〕 \\
\\
\end{align}\)
答‥0.89〔L3/(mol3・s)〕
2. 反応速度を大きくする条件
同じ反応でも、反応の条件を変えると反応速度は変化します。反応速度を決める要因には、濃度や圧力、温度、触媒の有無などがあります。ここでは、反応速度を大きくする条件を解説していきます。
2.1 濃度を大きくする
濃度を大きくすると、反応速度が大きくなります。化学反応は、反応する粒子同士が衝突することで起こります。反応物質の濃度を大きくすると、単位時間あたりに反応物質同士が衝突する回数は多くなりますよね?これによって、反応が進みやすくなり反応速度が大きくなります。
また、反応物質が気体で温度が一定であった場合、反応物質の分圧は反応物質の濃度に比例するので、気体反応では反応速度は反応物質の分圧が大きいほど大きくなります。
2.2 温度を高くする
反応速度は、温度を高くすると発熱反応か吸熱反応かによらず著しく大きな値をとるようになります。これには2つの要因があります。
1つ目は、温度を高くすることによって、反応物質がもつ運動エネルギーが大きくなり互いに衝突する頻度が増加するということです。
2つ目は、活性化エネルギーを超える粒子の数が増えるということです。(活性化エネルギーについては「活性化エネルギーとは(反応速度・求め方と単位)」の記事で詳しく解説しているので是非参考にしてください。)
温度が高くなると、物質が持つ運動エネルギーが増加します。よって、粒子のエネルギー分布が全体的にエネルギーの高いほうへ移動します。つまり、大きなエネルギーを持つ粒子の数が増えるんです。
これによって、活性化エネルギーを超える粒子の数が増え、衝突したときに化学反応を起こすことができる粒子の数が増大するため、反応速度が大きくなるのです。
2.3 触媒を加える
過酸化水素水に少量の酸化マンガン\(MnO_2\)を加えると、過酸化水素が分解し、水と酸素が生成するという反応が起こります。
\(2H_2O_2 →2H_2O + O_2\)
このとき、酸化マンガンは化学反応の前後では変化していません。このように、それ自身は反応前後で変化しないが、反応速度を大きく変える働きをする物質のことを触媒といいます。触媒は、触媒を加えなかったときかなり遅く進行する反応の反応速度を大きくするという働きをします。したがって、触媒を加えると反応速度を大きくさせることができます。
触媒を加えると反応速度が大きくなるのには、活性化エネルギーが関与しています。触媒には、活性化エネルギーを小さくする働きがあるのです。したがって、活性化エネルギーを超えることができる物質が増加するため反応速度が大きくなるのです。
2.4 表面積を大きくする
反応には固体が関係するものがあります。たとえば、固体の亜鉛と塩酸を反応させると以下のような反応が起こり水素が発生します。
\(Zn + 2HCl →ZnCl_2 + H_2\)
このとき、亜鉛を塊で使うのではなく粉状にして反応させたほうが反応速度が大きくなります。これは、塊よりも粉状にしたほうが亜鉛と塩酸が接する面積が大きくなり、単位時間当たりの固体表面での衝突回数が増えるためです。
3. まとめ
最後に反応速度についてまとめておこうと思います。
\(\begin{align} \\
\\
\displaystyle 反応速度 v & =\frac{生成物の濃度の増加量}{反応時間} \\
\\
& または \\
\\
反応速度 v & =\frac{反応物の濃度の減少量}{反応時間} \\
\end{align}\)
反応速度式は実験的に求められるもので、化学反応式の係数から決めることはできない!
①濃度を大きくする
②温度を高くする
③触媒を加える
④表面積を大きくする
反応速度は計算問題が出されることが多いです。
ここで解説した計算問題が主に出題されるものなので、しっかり理解できるまで何回も読み返してください!
\(2H_2O_2 →2H_2O + O_2\)
\(0.45 mol/L\)の過酸化水素水溶液\(10mL\)を分解し、発生した酸素を水上置換によって捕集する実験を行った。反応濃度を一定に保ち、捕集した酸素の体積を\(20秒\)ごとに測定した。このとき、次の表を参考にして以下の問いに答えよ。ただし、酸素の水への溶解と過酸化水素水溶液の体積変化は無視する。
(1) \(0~20\)、\(20~40\)、\(40~60\)、\(60~80\)のそれぞれ\(20秒間\)の\(H_2O_2\)の平均の分解速度を求めよ。
(2) 反応開始\(60秒\)後までに生成した\(O_2\)の物質量を有効数字3桁で求めよ。