蒸気圧とは(蒸気圧曲線・蒸気圧降下・温度・沸点・計算)

東大塾長の山田です。
このページでは蒸気圧」について解説しています

「蒸気圧は少し難しい」と感じている人もいるかもしれませんが、ここでは超わかりやすく解説しているので、是非参考にしてください。

1. 飽和蒸気圧

一定の温度に保たれた密閉容器の中に、液体を入れて放置します。

すると、最初は圧力が0であるから凝縮速度(単位時間あたりに凝縮する分子の数)は0だから、蒸発だけが起こります。

 

しかし、蒸発が起こって気体が生じて圧力が高くなると凝縮も始まります。

最初のうちは、蒸発速度(単位時間あたりに蒸発する分子の数)と凝縮速度の関係は、「蒸発速度 > 凝縮速度」ですが、時間が経過して蒸発が進み凝縮速度が増大するなどして、「蒸発速度=凝縮速度」が同じになると、蒸発と凝縮がちょうど打ち消し合い、見かけ上蒸発も凝縮も起こっていない平衡状態に達します。

この平衡状態を、気液平衡といいます。

上述のように、気体と液体が共存し、気液平衡の状態になっているときの気体の圧力を飽和蒸気圧、または、単に蒸気圧といいます。

飽和蒸気圧が高い(低い)気体ほど、蒸発しやすい(しにくい)気体です。

 

飽和蒸気圧には次のような特徴が存在します。

飽和蒸気圧の特徴

① 温度や液体の種類によって異なる。蒸気圧の値が大きいと揮発性が大きい。

② 蒸気圧は、温度が高くなるにつれて大きくなります。

③ 他の気体が存在しても、その値は変わらない。

④ 気液平衡状態である(液体が存在する)限り、温度が一定ならば、容器の体積を変化させても一定の値を示す。

 

2. ドルトンの分圧の法則(水蒸気圧)

分圧の法則と計算問題」の記事でドルトンの分圧の法則について解説しましたが、ここでは水上置換(水上捕集)で集めた気体を例に考えてみることにしましょう。

水上置換で集めた気体は、水蒸気との混合気体になっています。

メスシリンダーを水で満たし水槽の中で倒立させます。
メスシリンダーの中に水に難溶の気体Aを入れ、シリンダーの内外の水面の高さを上図のように一致させます。

すると、シリンダー内の全圧は大気圧 \( P \) に等しくなります。

このときのシリンダー内の全圧は、気体Aの圧力 \( p_A \) と水蒸気圧 \( p \) の合計になっています。

よって、捕集した気体Aの圧力は、次式のようになります。

\( \displaystyle 気体Aの圧力p_A = 大気圧P – 水蒸気圧p \)

 

3. 蒸気圧曲線と沸点

液体の蒸気圧と温度との関係を示した曲線を、蒸気圧曲線といいます(下図は水の蒸気圧曲線)。

この曲線上では、気液平衡の状態で、液体と気体が共存しています。

蒸気圧曲線を見て明らかなように、温度が高くなるにつれて蒸気圧は高くなります。

大気圧のもとで液体を加熱すると温度が上がり、蒸気圧も大きくなります。
蒸気圧が大気圧と等しくなると、液体の表面だけでなく内部からも蒸発(気化)が起こり、蒸気が気泡となって発生します

この現象のことを沸騰といいます。また、このときの温度のことを沸点といいます。

 

一般に、外圧(液体に接している気体の圧力)と蒸気圧が等しくなったときに、沸騰が起こります。

通常、物質の沸点は外圧が大気圧(\( 1.013 \times 10^5 Pa \))の場合の値で示されます。

 

沸点は外圧によって異なるので、大気圧下では水の沸点は \( 100℃ \) ですが、富士山頂のように圧力の低いところでは、水の沸点は低くなり、圧力釜の内部のように、圧力が高いところでは、水の沸点は高くなります。

蒸気圧曲線は「状態図とは(見方・例・水・鉄)」の記事で説明した状態図の一部を切り取ったものです。

 

4. 状態判定

蒸気圧は気体になれる液体の限界量をモルの代わりに表しています。つまり、蒸気圧を超えると気体になれないのです。

蒸気圧が絡んでくる問題では密閉容器の中の「状態判定」ができることが大事です。

ここでは、「すべてが気体になっている」のか「気液共存状態」なのか判定していこうと思います。

 

まず、密閉容器中の液体(\( n[mol] \)とする) がすべて蒸発できるかどうか判定するために、液体 \( n [mol] \) がすべて蒸発したという仮説を立てて、\( PV = nRT \) 式から圧力 \( p_{仮説} Pa \)(仮想の圧力)を計算します。

仮説で求めた \( p_{仮説} \) が正しい、つまり、水が全部気体であるためには蒸気圧(\( p_v Pa \))よりも圧力が小さくなればいいのです。

4.1 \( p_{仮説} < p_v \) のとき

このとき、蒸気圧よりも仮説の圧力が小さくなります。

つまり、仮説通り全部気体になります。

これより、「容器内の気体の圧力\(p Pa\)=液体\(n 〔mol〕\)がすべて蒸発した圧力」となります。

 

4.2 \( p_{仮説} = p_v \) のとき

このとき、液体 \( n [mol] \) はすべて蒸発、気体になります。もう少し圧力が大きくなると、一部液体になって気液共存状態になります。

これより、「容器内の圧力 \( p Pa \) = 飽和蒸気圧 \( p_v Pa \)」となります。

 

4.3  \( p_{仮説} > p_v \) のとき

このとき、仮説の圧力が飽和蒸気圧よりも大きくなっています。つまり、液体はすべて気体となることができず、一部液体として残る気液共存状態になっています。

このとき、「容器内の圧力 \( p Pa \) = 飽和蒸気圧 \( p_v Pa \)」となります。

この圧力をもとに、気体の状態方程式(\( p_v V = n_1RT \))から求めた物質量 \( n_1 [mol] \) を、すべての液体の物質量 \( n [mol] \) から引いた \( n_2 [mol] \)、

\( \displaystyle n_2 [mol] = n [mol] – n_1 [mol] \)

が液体として存在している物質の物質量となります。

ここからわかるように気体の圧力は飽和蒸気圧以上にすることはできません。

 

5. 蒸気圧を使った問題

ここでは、蒸気圧に関する問題を紹介していきます。以下、答えは有効数字2桁で表します。

5.1 問題1

問題1

\( 80℃ \) において \( 1.5L \) の密閉容器に水を \( 0.55g \) 入れてしばらく放置した。この時容器内に水滴は存在するかどうかを求めよ。ただし、気体定数 \( R \) は \( 8.3 \times 10^3 (L・Pa)/(K・mol) \) とする。また、水の飽和蒸気圧は \(80℃ \) で \( 4.7 \times 10^4 Pa \) とする。

【解答】

水がすべて気体になっていると仮定します。このときの気体の圧力を\(P_仮\)として、気体の状態方程式で求めると

\( \begin{align}
\displaystyle P_仮 V & = nRT \\
\\
P_仮 & = \frac{\frac{0.55〔g〕}{18〔g/mol〕} \times 8.3 \times 10^3〔L・Pa/(K・mol)〕 \times 353〔K〕}{1.5〔L〕} \\
\\
& = 5.96‥\times10^4 \\
\\
& ≒ 6.0 \times 10^4〔Pa〕
\end{align} \)

これより

\( 6.0 \times 10^4 〔Pa〕 \)(求めた圧力) \( 4.7 \times 10^4 〔Pa〕 \)(飽和蒸気圧)

となり、求めた圧力 \( P_仮 \) が飽和蒸気圧より大きくなっていることがわかります。

よって、水は液化していて水滴が存在しています。

答‥水滴は存在する

 

5.2 問題2

問題2

\( 80℃ \) において \( 4.0L \) の密閉容器に水を \( 2.0g \) 入れてしばらく放置した。この時容器内に水滴は存在するかどうかを求めよ。また、このときの容器内の圧力を求め、水滴が存在するなら液化した水の質量を求めよ。ただし、気体定数 \( R \) は \( 8.3 \times 10^3 (L・Pa)/(K・mol) \) とする。また、水の飽和蒸気圧は \( 80℃ \) で \( 4.7 \times 10^4 Pa \) とする。

【解答】

水がすべて気体になっていると仮定します。このときの気体の圧力を \( P_仮 \) として、気体の状態方程式で求めると

\( \begin{align}
\displaystyle P_仮 V & = nRT \\
\\
P_仮 & = \frac{\frac{2.0〔g〕}{18〔g/mol〕} \times 8.3 \times 10^3 〔L・Pa/(K・mol)〕 \times 353 〔K〕}{ 4.0〔L〕} \\
\\
& = 8.13 ‥ \times 10^4 \\
\\
& ≒ 8.1 \times 10^4 〔Pa〕
\end{align} \)

これより

\( 8.1 \times 10^4 〔Pa〕\)(求めた圧力) \(4.7\times10^4〔Pa〕\)(飽和蒸気圧)

となり、求めた圧力 \( P_仮 \) が飽和蒸気圧より大きくなっていることがわかります。よって、水は液化していて水滴が存在しています。

気液共存状態のとき、「容器内の圧力 \( p Pa \) = 飽和蒸気圧 \( p_v Pa \)」となることから、容器内の圧力は \( 4.7 \times 10^4 〔Pa〕 \)となります。

 

このとき、液化した水の質量を \( x〔g〕 \) とすると、気体として存在している水の質量は \( 2.0 – x 〔g〕 \) となるから、気体の状態方程式より

\( \displaystyle 4.7 \times 10^4〔Pa〕 \times 4.0 〔L〕 = \frac{2.0-x〔g〕}{18〔g/mol〕} \times 8.3 \times 10^3 〔L・Pa/(K・mol)〕 \times 353〔K〕 \)

これを解くと

\( \displaystyle x = 0.845 ‥‥ ≒ 0.85 〔g〕 \)

答‥水滴は存在する、容器内の圧力:4.7×104〔Pa〕、液化した水の質量:0.85〔g〕

 

5.3 問題3

問題3

容器一定の容器に、\( 27℃ \) のメタンに \( 1.0 \times 10^5 Pa \) と酸素 \( 3.0 \times 10^5 Pa \) を入れ、完全燃焼させたところ、水と二酸化炭素が発生した。その後、\( 27℃ \) に戻したときの水(水蒸気)の分圧を求めよ。また、容器内に存在する気体の全圧を求めよ。ただし、水の飽和蒸気圧は \( 27℃ \) で \( 4.0 \times 10^3 Pa \) とする。

【解答】

メタンが燃焼するときの化学反応式は

\( \displaystyle CH_4 + 2O_2 → CO_2 + 2H_2 O \)

となります。メタンが完全燃焼したときのそれぞれの気体の圧力の変化は下のようになります。

ここで、求めた水の圧力は \( 2.0 \times 10^5 Pa \) となりますが、

\( 2.0 \times 10^5〔Pa〕 \)(求めた圧力) \( 4.0 \times 10^3〔Pa〕 \)(飽和蒸気圧)

であるから、水の分圧は \( 4.0 \times 10^3 Pa \) となります。

また、容器内の全圧は

\( \displaystyle 1.0 \times 10^5 + 1.0 \times 10^5 + 4.0 \times 10^3 = 2.04 \times 10^5 〔Pa〕 \)

よって、

答‥水の分圧:4.0×103〔Pa〕、全圧:2.0×105〔Pa〕

 

6. グラフを使った問題

問題4

上図はエタノールと水の蒸気圧曲線です。次の(1)~(3)に答えよ。

(1) 外圧が \( 1.0 \times 10^5 Pa \) のときのエタノールの沸点は何℃か。

(2) 水が \( 60℃ \) で沸騰する外圧では、エタノールは何℃で沸騰するか。

(3) エタノールが液体としてのみ存在し、内部の圧力が \( 0.10 \times 10^5 Pa \) の密閉容器がある。この容器を何℃まで上昇させると、気体のエタノールが観察されるようになるか。

【解答】

(1) エタノールの蒸気圧が \( 1.0 \times 10^5 Pa \) になる温度は \( 78℃ \) である。この温度で、「蒸気圧=外圧」となるので沸騰します。

答‥78℃

(2) 水の \( 60℃ \) の蒸気圧は \( 0.20 \times 10^5 Pa \) だから、外圧が \( 0.20 \times 10^5 Pa \) のとき、水は \( 60℃ \) で沸騰します。したがって、エタノールの蒸気圧が \( 0.20 \times 10^5 Pa \) となる温度を蒸気圧曲線から読み取ると、\( 43℃ \) となります。

答‥43℃

(3) 蒸気圧曲線上では気液平衡にあり、気体も存在します。エタノールの蒸気圧が \( 0.10 \times 10^5 Pa \) となる温度を探すと、\( 30℃ \) となります。

答‥30℃

 

7. まとめ

最後に蒸気圧についてまとめてます。

蒸気圧まとめ
  • 「蒸発速度=凝縮速度」が同じになると、蒸発と凝縮がちょうど打ち消し合い、見かけ上蒸発も凝縮も起こっていない平衡状態に達する。この平衡状態を、気液平衡という。
  • 気体と液体が共存し、気液平衡の状態になっているときの気体の圧力を飽和蒸気圧、または、単に蒸気圧という。
  • 液体の蒸気圧と温度との関係を示した曲線を、蒸気圧曲線という。
  • 蒸気圧が大気圧と等しくなると、液体の表面だけでなく内部からも蒸発(気化)が起こり、蒸気が気泡となって発生する。この現象のことを沸騰という。また、このときの温度のことを沸点という。
  • 液体 \( n mol \) がすべて蒸発したという仮説を立てて、\( PV = nRT \) 式から圧力 \( p_{仮説} Pa \)(仮想の圧力)を計算したとき、蒸気圧(\( p_v Pa \))との大小が、\( p_{仮説} ≦ p_v \) のとき、液体はすべて気体となり、\( p_{仮説} > p_v \) のとき、一部が液体として存在している気液共存状態となる。

上で説明した問題はよく出てきます。ここでは、液体が存在する問題だけ紹介しましたが、実際には液体が存在しないものもあります。また、このような問題の応用が出題されることもありますが、基本的に上で述べた状態判定がちゃんとできれば問題ありません。

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