【数学Ⅲ】近似式まとめ(各種公式・求め方)

東大塾長の山田です。

このページでは、数学で登場する近似式について詳しく説明しています。

頻出の近似公式はもちろん、何で近似公式を使うのかといったことについても一つ一つ掘り下げています。また、近似公式の証明の際に使うマクローリン展開についも簡単にまとめています。(詳しくは別記事)

ぜひ勉強の参考にしてください!

1. 近似とは

ある値が他の数と比べると十分に小さい場合に、その値を無視する操作のこと「近似」といいます。早速確認していきましょう。

ある数\(x\)について、

\(|x|≪1\)

と表した場合、「\(x^2\)が\)1^2\)に比べて無視できる(十分に小さい)」ということを意味します。つまり、\(|x|≪1\)の下では、\(1+x^2\)は\(1\)とみなすことができ、記号\(≃\)(もしくは\(≈\))を用いて以下のように表現されます。

\(1+x^2≃1\)

\(≃\)は「ほぼ等しい」ということを表す数学記号です。

このような操作を近似といいます。

2. 近似公式

早速近似公式を確認していきましょう。高校物理でも頻出の公式と、発展的(覚えづらい)公式に分けて紹介していきます。

2.1 頻出近似公式

まずは頻出の近似公式です。

頻出公式

\(\sqrt{1+x} \simeq 1+\frac{x}{2} \displaystyle\quad(|x| \ll 1)\)

\((1+x)^{n} \simeq 1+n x \quad(|x| \ll 1)\)

\(\begin{aligned}(L+a)^{\frac{1}{2}} &=L^{\frac{1}{2}}\left(1+\frac{a}{L}\right)^{\frac{1}{2}} \\ & \simeq L^{\frac{1}{2}}\left(1+\frac{a}{2 L}\right) \quad(|a| \ll L) \end{aligned}\)

\(\sin \theta \approx \tan \theta\simeq \theta \quad(|\theta| \ll 1)\)

\(\cos \theta \simeq 1 \quad(|\theta| \ll 1)\)

これらの公式は物理でも多く出てくるので、見覚えがある人も多いのではないでしょうか?覚えやすい公式なので、頭に入れておくと良いでしょう!

2.2 発展近似公式

次に発展的な近似公式です。

発展近似公式

\((1+x)^{n}=1+n x+\displaystyle\frac{n(n-1)}{2!} x^{2}+\displaystyle\frac{n(n-1)(n-2)}{3!} x^{3}+\cdots\)

\(\sin x=x-\displaystyle\frac{x^{3}}{6}+\displaystyle\frac{x^{5}}{120}-\cdots\)

\(\cos x=1-\displaystyle\frac{x^{2}}{2}+\displaystyle\frac{x^{4}}{24}-\cdots\)

\(\tan x=x+\displaystyle\frac{1}{3} x^{3}+\displaystyle\frac{2}{15} x^{5}+\cdots\)

\(e^{x}=1+x+\displaystyle\frac{1}{2} x^{2}+\displaystyle\frac{1}{6} x^{3}+\displaystyle\frac{1}{24} x^{4} \cdots\)

\(\log (1+x)=x-\displaystyle\frac{1}{2} x^{2}+\displaystyle\frac{1}{3} x^{3}-\displaystyle\frac{1}{4} x^{4}+\cdots\)

形を見てもらえばわかるように、多項式の形になっていて先ほどよりも複雑になっていますね、実はその分近似の精度も上昇しています。

このように多項式になっている場合は、「\(x\)の何乗が\(1\)に比べて無視できるか」ということを考える必要があります。

例えば\(|x^3|\)が\(1\)に対して十分無視できるときは、上記の公式のうち「\(x\)の次数が\(3\)以上の項を無視する」ことになります。

【例】\(|x^3|\)が\(1\)に対して十分無視できるとき

\((1+x)^{n}\simeq 1+n x+\displaystyle\frac{n(n-1)}{2!} x^{2}\)

\(\sin x\simeq x\)

\(\cos x\simeq 1-\displaystyle\frac{x^{2}}{2}\)

\(\tan x\simeq x\)

\(e^{x}\simeq 1+x+\displaystyle\frac{1}{2} x^{2}\)

\(\log (1+x)\simeq x-\displaystyle\frac{1}{2} x^{2}\)

ポイント:\(x^3\)以上の項が登場してこない!

先述した\(|x|\)が1より十分に小さい時の近似公式についても、\(x\)の次数が1以上のものを無視すればよいので、簡単に理解することができますね、

3. 近似公式の導出(マクローリン展開の導入)

先ほど複雑な形の近似公式を扱いましたが、それらはどのように導出されるのでしょうか?これらの公式を導出するためには、「マクローリン展開」というものについて理解する必要があります。

マクローリン展開についてはここでは簡単に触れているだけなので、詳しくまとめている別記事も参照してみてください!

3.1 マクローリン展開(詳しくは別記事)

マクローリン展開とは一般の関数\(f(x)\)が以下のように展開できるというものです。

マクローリン展開

\(f(x)\)の第n次導関数を\(f^{(n)}(x)\)を書けば、\(x\simeq 0\)のとき

\(\begin{aligned}f(x)&=f(0)+f^{\prime}(0) x+\frac{f^{\prime \prime}(0)}{2 !} x^{2}+\frac{f^{(3)}(0)}{3 !} x^{3} \cdots\\&=\sum_{k=0}^{\infty} f^{(k)}(0) \frac{x^{k}}{k !}\\\end{aligned}\)

が成立します。

マクローリン展開の適用範囲には制限がありますが、ここではそこについては議論せずあくまでも導出の道具として扱っていきます。

3.2 近似公式の導出

それではマクローリン展開を用いて近似公式を導出していきましょう。

マクローリン展開

\(\begin{aligned}f(x)&=f(0)+f^{\prime}(0) x+\frac{f^{\prime \prime}(0)}{2 !} x^{2}+\frac{f^{(3)}(0)}{3 !} x^{3} \cdots\\&=\sum_{k=0}^{\infty} f^{(k)}(0) \frac{x^{k}}{k !}\\\end{aligned}\)

各パターンにおいて導出を行っていきます。

【証明】\((1+x)^n\)について

まずは導関数の計算を行いましょう。

\(\begin{aligned} f(0) &=(1+0)^{n}=1 \\ f^{\prime}(0) &=n(1+0)^{n-1}=n \\ f^{\prime \prime}(0) &=n(n-1)(1+0)^{n-2}=n(n-1) \\ \cdots &=\cdots \end{aligned}\)

これをマクローリン展開の各項に代入すると、

\(\begin{aligned}f(x)&=f(0)+\frac{1}{1 !} f^{(1)}(0) x+\frac{1}{2 !} f^{(2)}(0) x^{2}+\cdots\\&=1+\frac{1}{1 !} n x+\frac{1}{2 !} n(n-1) x^{2}+\cdots\\\end{aligned}\)

となり、近似公式を導出することができました。

【証明】三角関数について

まずは\(\sin x\)について、先ほど同様導関数を計算していきます。

\(\begin{aligned} f(0) &=\sin 0=0 \\ f^{\prime}(0) &=\cos 0=1 \\ f^{\prime \prime}(0) &=-\sin 0=0 \\ f^{\prime \prime \prime}(0) &=-\cos 0=-1 \\ \cdots &=\cdots \end{aligned}\)

マクローリン展開に代入していくと

\(\begin{aligned} f(x) &=f(0)+\frac{1}{1 !} f^{(1)}(0) x+\frac{1}{2 !} f^{(2)}(0) x^{2}+\cdots \\ &=0+\frac{1}{1 !} 1 \cdot x+\frac{1}{2 !} 0 \cdot x^{2}+\frac{1}{3 !}(-1) \cdot x^{3}+\cdots \\ &=x-\frac{x^{3}}{3 !}+\frac{x^{5}}{5 !}-\cdots \\ &=x-\frac{x^{3}}{6}+\frac{x^{5}}{120}-\cdots \end{aligned}\)

となり、導出することができました。

\(\cos x\)や\(\tan x\)についても、同様に考えていくと導出することができます。

【証明】指数関数について

導関数の計算を行います。

\(\begin{aligned} f(0) &=e^{0}=1 \\ f^{\prime}(0) &=e^{0}=1 \\ f^{\prime \prime}(0) &=e^{0}=1 \\ \ldots &=\cdots \end{aligned}\)

これらをマクローリン展開に代入すると

\(e^{x}=1+x+\frac{1}{2 !} x^{2}+\frac{1}{3 !} x^{3}+\cdots\)

これらすべての公式が\(x\simeq 0\)において成り立つことは常に頭の中に入れておきましょう!

このようにして近似公式を導出することができました。物理における近似公式は、数学の言葉でいうとマクローリン展開をどこまで行うか、ということが分かりました!

マクローリン展開についてもっと知りたい人はこちらの記事も参照してください!

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4. 近似の意味

ここまで様々な近似公式を扱ってきましたが、最後に近似を使う意義について考えていきましょう。

なぜ近似を用いるのでしょうか?

近似について考えるとき、「なんで近似なんかするの?」「正確な値が分からないなら意味なくない?」、さらには「どうして近似を用いても良いのか?」と思う人も多いでしょう。

これらの疑問に答えるにあたって頭に入れておくべき前提としては「正確な値は必ずしも求まらないし、求める必要がない場合も多い」というものがあります。

例を用いて考えていきましょう。

4.1 どうして近似を用いてよいのか

まず「どうして近似を用いてよいのか?」という問いに対しての解答としては、「簡単に必要な情報を抽出できるから」というものがあります。

【例】\((1+0.1)^{\frac{1}{2}}\)について考えていきます。

いま\(x^2\)が\(1\)に比べて十分に小さい時に成立する近似公式

\((1+x)^{\frac{1}{2}}≃1+\displaystyle\frac{x}{2}\cdots①\)

について、①の左辺と右辺にそれぞれ\(x=0.1\)を代入してみると

\(\begin{cases}(左辺)=1.0488088\ldots \\(右辺)=1.05\end{cases}\)

となり、比較的等しい値となっていますね。有効数字2桁にしか興味がない場合については「実用的に等しい」ということができます。(有効数字3桁以上を気にする場合はダメですが)

次に精度が高い

\((1+x)^{\frac{1}{2}}≃1+\displaystyle\frac{x}{2}-\displaystyle\frac{x^2}{8}\cdots②\)

について、②の両辺に同じように\(x=0.1\)を代入すると

\(\begin{cases}(左辺)=1.0488088\ldots\\(右辺)=1.04875\end{cases}\)

となり先ほどと比較してもかなり精度が上がったことが分かりますね。この場合も有効数字4桁にしか注目しない場合は「実用的に等しい」ということができます。

上でみたように、自分たちが必要とする範囲内で同じ値が得られるのならば、近似した式で考えても同じことなのです。

つまり先ほど答えたように、「簡単に必要な情報を抽出する」ために近似を使うことは全く間違いではないのです。

4.2 どうして近似を用いるのか

また、近似を用いた方が良い場合(なぜ近似を用いるのか?)についても考えていきましょう。

先述したように「正確な値は求めなくても良い」という前提があります。これは完全に正確に述べることよりも、適度に等しい値を知ることができれば十分であるという考えが基になっています。

物理の単振り子について考えてみましょう。

高校物理で扱う単振り子の問題は途中で近似を用いることで、単振動の問題に帰着させています。この場合必要なのは、運動についての重要な性質であり、上で述べたようにそれらは近似で求まります。

運動についての重要な性質(ここでは単振動に近い運動をするという意味)を知りたいのであれば、近似を用いて「非常に長い振り子の振れ幅が微小なとき、振り子の振動周期が振り子の長さと重力加速度のみで表される」ということを求めてあげればよいのです。

これは物理において近似を使う目的の一つです。

5. まとめ

お疲れ様でした!最後に今回学んだことをまとめておくので、復習に活用してください。

近似まとめ

近似とは:ある値が他の数と比べると十分に小さい場合に、その値を無視する操作のこと

近似公式

頻出公式

\(\sqrt{1+x} \simeq 1+\frac{x}{2} \displaystyle\quad(|x| \ll 1)\)

\((1+x)^{n} \simeq 1+n x \quad(|x| \ll 1)\)

\(\begin{aligned}(L+a)^{\frac{1}{2}} &=L^{\frac{1}{2}}\left(1+\frac{a}{L}\right)^{\frac{1}{2}} \\ & \simeq L^{\frac{1}{2}}\left(1+\frac{a}{2 L}\right) \quad(|a| \ll L) \end{aligned}\)

\(\sin \theta \approx \tan \theta\simeq \theta \quad(|\theta| \ll 1)\)

\(\cos \theta \simeq 1 \quad(|\theta| \ll 1)\)

発展公式

\((1+x)^{n}=1+n x+\displaystyle\frac{n(n-1)}{2!} x^{2}+\displaystyle\frac{n(n-1)(n-2)}{3!} x^{3}+\cdots\)

\(\sin x=x-\displaystyle\frac{x^{3}}{6}+\displaystyle\frac{x^{5}}{120}-\cdots\)

\(\cos x=1-\displaystyle\frac{x^{2}}{2}+\displaystyle\frac{x^{4}}{24}-\cdots\)

\(\tan x=x+\displaystyle\frac{1}{3} x^{3}+\displaystyle\frac{2}{15} x^{5}+\cdots\)

\(e^{x}=1+x+\displaystyle\frac{1}{2} x^{2}+\displaystyle\frac{1}{6} x^{3}+\displaystyle\frac{1}{24} x^{4} \cdots\)

\(\log (1+x)=x-\displaystyle\frac{1}{2} x^{2}+\displaystyle\frac{1}{3} x^{3}-\displaystyle\frac{1}{4} x^{4}+\cdots\)

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2件のコメント

f(x)が多項式で近似されているとき、微分しても積分しても、近似式になっていると言ってもいいのでしょうか。徳島大学の問題でf(x)=sqrt(x^2-2x+2)とし、(1) f'(1)を求めよ。(2) lim(x➝1)f'(x)/(x-1) を求めよ。(3) xが1に十分近いとき、f'(x)=a+b(x-1)を満たすaとbを求めよ。(4) (3)を用いてf(x)=A+B(x-1)+C(x-1)^2をみたすA,B,Cを求めよ。という問題があるのですが、(4)の模範解答が(3)の結果を積分しています。ならば、(4)の式を微分してもいいのではと思ってしまいます。よろしくお願いいたします。

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