東大塾長の山田です。
このページでは、マクローリン展開について詳しく解説しています!
マクローリン展開の一般系や具体形についてはもちろん、マクローリン展開がどのように・何のために考えられたのか、理解することでどのようなメリットが得られるのかについても解説しています。
ぜひ勉強の参考にしてください!
1. マクローリン展開とは
1.1 マクローリン展開の一般形
マクローリン展開を用いると、一般の関数\(f(x)\)を多項式で近似することができます。その多項式は以下のように、\(x=0\)における微分係数によって決定されます。
\(f(x)\)の第n次導関数を\(f^{(n)}(x)\)を書けば
\(\begin{aligned}f(x)&=f(0)+f^{\prime}(0) x+\frac{f^{\prime \prime}(0)}{2 !} x^{2}+\frac{f^{(3)}(0)}{3 !} x^{3} \cdots\\&=\sum_{k=0}^{\infty} f^{(k)}(0) \frac{x^{k}}{k !}\\\end{aligned}\)
が成立する。
これはつまり、局所的\(x=0\)な情報さえ分かれば、関数全体の形が分かるということを言っています。
また、上等式が成立するためには右辺の級数が収束する必要があり、そのために収束半径なるものを考える必要がありますが、高校範囲で扱う際に用いる関数では特に気にしなくても良いことなので、ここでは省略します。
2. マクローリン展開の具体例
マクローリン展開は一般系が問われるというよりも、ある関数がどのように表されるかの方が重要なので、具体形についても扱っていきましょう。
2.1 具体例
高校数学で登場する整関数以外の代表的関数には、\(e^x, \sin x, \cos x, \log (1+x)\)があります。まずはそれぞれのマクローリン展開を紹介します。
\(e^{x}=1+x+\displaystyle\frac{1}{2} x^{2}+\displaystyle\frac{1}{6} x^{3}+\displaystyle\frac{1}{24} x^{4} \cdots\)
\(\sin x=x-\displaystyle\frac{x^{3}}{6}+\displaystyle\frac{x^{5}}{120}-\cdots\)
\(\cos x=1-\displaystyle\frac{x^{2}}{2}+\displaystyle\frac{x^{4}}{24}-\cdots\)
\(\log (1+x)=x-\displaystyle\frac{1}{2} x^{2}+\displaystyle\frac{1}{3} x^{3}-\displaystyle\frac{1}{4} x^{4}+\cdots\)
2.2 導出
それでは具体形の導出を行っていきましょう。一般系を見ればわかるように、0付近の関数の挙動(具体的には微分係数)が分かればよいので、4つの関数についてまとめてみましょう。
\(f(0)\) | \(f'(0)\) | \(f”(0)\) | \(f^{(3)}(0)\) | \(f^{(4)}(0)\) | |
\(e^x\) | \(1\) | \(1\) | \(1\) | \(1\) | \(1\cdots\) |
\(\log (1+x)\) | \(0\) | \(1\) | \(-1\) | \(2!\) | \(-(3!\cdots)\) |
\(\sin x\) | \(0\) | \(1\) | \(0\) | \(-1\) | \(0\cdots\) |
\(\cos x\) | \(1\) | \(0\) | \(-1\) | \(0\) | \(1\cdots\) |
まとめてみると上図のようになって、きれいな規則性が見受けられましたね。これを踏まえて、マクローリン展開の一般系
\(\begin{aligned}f(x)&=f(0)+f^{\prime}(0) x+\frac{f^{\prime \prime}(0)}{2 !} x^{2}+\frac{f^{(3)}(0)}{3 !} x^{3} \cdots\\&=\sum_{k=0}^{\infty} f^{(k)}(0) \frac{x^{k}}{k !}\\\end{aligned}\)
に代入してみると、各々の具体形
\(e^{x}=1+x+\displaystyle\frac{1}{2} x^{2}+\displaystyle\frac{1}{6} x^{3}+\displaystyle\frac{1}{24} x^{4} \cdots\)
\(\sin x=x-\displaystyle\frac{x^{3}}{6}+\displaystyle\frac{x^{5}}{120}-\cdots\)
\(\cos x=1-\displaystyle\frac{x^{2}}{2}+\displaystyle\frac{x^{4}}{24}-\cdots\)
\(\log (1+x)=x-\displaystyle\frac{1}{2} x^{2}+\displaystyle\frac{1}{3} x^{3}-\displaystyle\frac{1}{4} x^{4}+\cdots\)
を得ることができます!このように導出は比較的簡単にすることが可能です。
2.3 展開の意味(近似との関係)
さて、\(e^x, \sin x, \cos x, \log (1+x)\)のマクローリン展開はどのような意味を持つのでしょうか?
大きな意味としては、「得体のしれないこれらの関数をなじみのある整関数として考えることができる」というものがあります。
しかし、高校段階においては、無限個の整関数の足し算を定義することができません。(ルール違反)
そこで無限個で考えることがだめならば、有限個で考えればよいという発想をしてみましょう。具体例を用いましょう。
【例】
\(e^x=1+x+\displaystyle\frac{1}{2}x^2\cdots\)
について展開を途中で断ち切ってみると
\(e^x\simeq 1+x,\quad e^x\simeq 1+x+\displaystyle\frac{1}{2}x^2\)
として考えることができます。
このような操作のことを近似といいます。気を付けなければいけないのは、これはあくまでも正確な値に近づける操作に過ぎないので、\(=\)で等式化することができないことです。
近似については別記事で詳しくまとめているので、そちらも参照してください!
結局ここまでの情報をまとめると以下のようになりますね!
・一点\(x=0\)の情報で全体が分かる!
・得体のしれない関数を整関数で表現できる!
・展開を途中で断ち切って近似することができる!
3. マクローリン展開の導出
ここまで当たり前のように道具として用いてきたマクローリン展開ですが、そもそも一般系はどのように求めることができるのでしょうか?
ここでは、マクローリン展開の導出について考えていきます。
以下では、テイラー展開・定理の証明をロルの定理を用いて行い、そこからマクローリン展開が成立することを示していきたいと思います。
3.1 テイラーの定理からテイラー展開・マクローリン展開へ
\(n\)次の導関数についての基本的な結果が、次のテイラーの定理で、関数の値を近似的に求めたり、関数の極致を求めたりするのに有効です。
テイラーの定理
\(f(x)\)が\(a\leq x\leq b\)において\(n\)回微分可能な時
\(f(b)=\displaystyle\sum_{k=0}^{n-1} f^{(k)}(a) \displaystyle\frac{(b-a)^{k}}{k !}+f^{(n)}(c) \displaystyle\frac{(b-a)^{n}}{n !}\)
なる\(c\)(\(a<c<b\))が存在する。
これがテイラーの定理です。これにおいて、\(a\)を固定して\(b\)を変数\(x\)だと考えていきます。
\(f(x)=\displaystyle\sum_{k=0}^{n-1} f^{(k)}(a) \displaystyle\frac{(x-a)^{k}}{k !}+f^{(n)}(c) \displaystyle\frac{(x-a)^{n}}{n !}\)
この関数の末尾の項:\(f^{(n)}(c) \displaystyle\frac{(b-a)^{n}}{n !}\)のことを余剰項といいます。もし、余剰項が十分に小さい場合、これを無視することで\(f(x)\)を多項式で近似することができますね。
これを踏まえて関数\(f(x)\)を高精度で近似していこうとすると、
\(f(x)=\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty} f^{(k)}(a) \displaystyle\frac{(x-a)^{k}}{k !}\)
となります。この展開を「テイラー展開」といいます。
\(f(x)=\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty} f^{(k)}(a) \displaystyle\frac{(x-a)^{k}}{k !}\)
形を見て気づいたかもしれませんが、テイラー展開において\(a=0\)を代入すればマクローリン展開になります。つまり、遡るとテイラーの定理を示すことができれば、マクローリン展開も証明できたことになるのです。
ここからはテイラーの定理を示すことを目標にしていきます。
3.2 道具としてのロルの定理
テイラーの定理を示す際に、ロルの定理を用いる必要があるので、ここで紹介・証明しておきます。
区間\([a,b]\)で連続、\((a,b)\)で微分可能な、\(f(a)=f(b)\)なる関数\(f(x)\)について
\[f'(c)=0\quad (a<c<b)\]
を満たす\(c\)が存在する。
まずはロルの定理の証明です。
【証明】
Ⅰ \(f(x)=\rm{const.}\)のとき
\(a<c<b\)なる任意の\(c\)で、
\[f'(c)=0\]
となり成り立ちます。
Ⅱ \(f(a)<f(t)\)なる\(t\)が存在するとき
最大値の原理より、\(a<c<b\)で\(f(c)\)が最大になるような\(c\)が存在します。
\(f(x)\)が\(c\)で微分可能なことと、\(f(c) \geq f(c+h)\)より
\[\begin{cases}f^{\prime}(c)=\displaystyle\lim _{h \rightarrow+0} \displaystyle\frac{f(c+h)-f(c)}{h} \leq 0\\f^{\prime}(c)=\displaystyle\lim _{h \rightarrow-0} \displaystyle\frac{f(c+h)-f(c)}{h} \geq 0\end{cases}\]
より
\[f'(c)=0\]
となることが分かりました。
Ⅲ \(f(a)>f(t)\)なる\(t\)が存在するとき
最小値の原理(最大値の原理の逆)より、\(a<c<b\)で\(f(c)\)が最小になるような\(c\)が存在します。
\(f(x)\)が\(c\)で微分可能なことと、\(f(c) ≦ f(c+h)\)より
\[\begin{cases}f^{\prime}(c)=\displaystyle\lim _{h \rightarrow+0} \displaystyle\frac{f(c+h)-f(c)}{h} ≦ 0\\f^{\prime}(c)=\displaystyle\lim _{h \rightarrow-0} \displaystyle\frac{f(c+h)-f(c)}{h} ≧ 0\end{cases}\]
より
\[f'(c)=0\]
となります。
3.3 テイラーの定理(マクローリン展開)の証明
道具は全て揃いました!いよいよテイラーの定理(すなわちマクローリン展開)の証明を行っていきましょう。
【証明】
\(f(b)=\displaystyle\sum_{k=0}^{n-1} f^{(k)}(a) \displaystyle\frac{(b-a)^{k}}{k !}+A \displaystyle\frac{(b-a)^{n}}{n !}\)
なる定数\(A\)を持ってきます。以下の目標は
\(A=f^{(n)}(c)\)
を満足する\(c\)の存在を示すことです。
ここで新たな関数\(g(x)\)を以下のように定義します。
\(g(x)=g(x)=f(b)-\displaystyle\sum_{k=0}^{n-1} f^{(k)}(x) \displaystyle\frac{(b-x)^{k}}{k !}-A \displaystyle\frac{(b-x)^{n}}{n !}\)
すると、
\(\begin{cases}g(a)=0\\ g(b)=0\end{cases}\)
となり、ロルの定理が使えることが分かります。つまり、\(g'(c)=0\)なる\(c\)(\(a<c<b\))が存在することが分かります。
実際に\(g'(x)=0\)を計算していくと
\(\begin{array}{l}{g^{\prime}(x)=-\displaystyle\sum_{k=0}^{n-1} f^{(k+1)}(x) \displaystyle\frac{(b-x)^{k}}{k !}} \\ {+\displaystyle\sum_{k=1}^{n-1} f^{(k)}(x) \displaystyle\frac{(b-x)^{k-1}}{(k-1) !}+A \displaystyle\frac{(b-x)^{n-1}}{(n-1) !}}\end{array}\)
となり、まとめると
\(g^{\prime}(x)=\displaystyle\frac{(b-x)^{n-1}}{(n-1) !}\left(A-f^{(n)}(x)\right)\)
よって\(g'(x)=0\)から、\(f^{(n)}(c)=A\)が示されました。(証明終了)
これでテイラーの定理が示されたので、マクローリン展開も証明できたことになります!
4. マクローリン展開を理解することのメリット
ここまで長々とマクローリン展開について扱ってきましたが、高校数学において結局どのようにマクローリン展開について考えていけばよいのでしょうか?
ここでは、実用性の面から説明していきたいと思います。
4.0 マクローリン展開の気持ち
まずはマクローリン展開が何を伝えたいかについて、結局は「得体のしれない関数(三角関数・指数関数・対数関数など)を馴染み深い整関数にする」に帰着します。
整関数の方がいままでの経験があるため扱いやすいのです。それさえ分かれば次のような応用ができます。
4.1 オーダーが簡単に理解できる
例えば、\(e^x≫x^n\quad(x\to \infty)\)といういまいち実感が分かりづらい極限のオーダーについても、マクローリン展開を用いることで簡単に理解することができます。(∵\(e^x\)には\(x^n\)以上の項が存在するから)
4.2 極限に応用できる
極限にも応用することができます。マクローリン展開を途中で断ち切って、\(x\to 0\)において以下のことが成り立つことが分かれば、以下のように極限を考えることができます。
マクローリン展開を途中で断ち切って
\(\sin x\simeq x, \quad \cos x\simeq 1-\displaystyle\frac{x^2}{2}\)
よって
\(\displaystyle\lim_{x\to 0} \displaystyle\frac{\sin (x^3-x)}{x}=\displaystyle\lim_{x\to 0} \displaystyle\frac{x^3-x}{x}=-1\)
\(\displaystyle\lim_{x\to 0} \displaystyle\frac{1-\cos x}{x\sin x}=\displaystyle\lim_{x\to 0} \displaystyle\frac{1-\left(1-\displaystyle\frac{x^2}{2}\right)}{x^2}=\displaystyle\frac{1}{2}\)
これは大変便利ですが、厳密ではないのであくまでも検算ツールとして用いましょう。
4.3 不等式の背景が分かる
以下のような不等式を示せ、といった問題を見たことある人も多いのではないでしょうか?
【例】
\(x-\displaystyle\frac{x^{3}}{3 !} ≦ \sin x ≦ x \quad[x ≧ 0]\)
\(1-\displaystyle\frac{x^{2}}{2 !}≦ \cos x ≦ 1-\displaystyle\frac{x^{2}}{2 !}+\displaystyle\frac{x^{4}}{4 !} \quad[x ≧ 0]\)
\(x-\displaystyle\frac{x^{2}}{2} ≦ \log (1+x) ≦ x-\displaystyle\frac{x^{2}}{2}+\displaystyle\frac{x^{3}}{3} \quad[x ≧ 0]\)
\(1+\displaystyle\frac{x}{1!}+\displaystyle\frac{x^2}{2!}+\cdots\displaystyle\frac{x^n}{n!}≦ e^x\quad[x≧ 0]\)
これらはみな、マクローリン展開を途中で断ち切って元の関数との大小を比較した不等式です。
入試では、これらの不等式の証明は「何度も微分して増減を調べる」ことでできます。これらの不等式を証明させた後に、極限を求めさせる問題も良く見受けられますね。
このようにマクローリン展開を理解することで、入試問題の裏側にも触れることができます!ぜひ頭に入れておいてください。
f’’(x)=f’’(0)+f’’’(0)x
を積分して
f’(x)=f’’(0)x + 1/2 f’’’(0)x^2 + C
x =0 代入してC=f’(0)
更に積分して
f(x)=f’(0)x +1/2 f’’(0)x ^2 + 1/6 f’’’(0)x^3 + D
x =0 代入してD=f(0) よって
f(x)=f(0)+f’(0)x +1/2 f’’(0)x ^2 + 1/6 f’’’(0)x^3
例えば、f’’’’(x)=f’’’’(0)+f’’’’’(0)x から積分を始めるとさらに2つ項が加わります。開始時点での微分回数は任意にいくらでも大きく設定できるのでマクローリン展開が積分により求められてしまいますがこの考えはおかしいでしょうか? ご教示いただけると幸いです。