東大塾長の山田です。
このページでは、「加法定理」について解説します。
加法定理は大学受験の中でも最重要の公式の1つです。しかし、加法定理に関する公式はたくさんあり、覚えるのが大変ですよね。
そこで今回は、加法定理の「証明」「覚え方」「語呂合わせ」を紹介し、さいごには「加法定理の入試問題」も解説しています。
ぜひ勉強の参考にしてください!
1. 加法定理の公式まとめ
2つの角 \( \alpha, \beta \) の和「\( \alpha + \beta \)」や差「\( \alpha – \beta \)」の三角関数は、\( \alpha, \beta \) の三角関数で表すことができます。
これを三角関数の加法定理といい、次の公式が成り立ちます。
加法定理とは、角の和や差の三角関数を表す公式です。
【正弦の加法定理】
\( \color{red}{ \begin{cases}
\sin (\alpha + \beta) = \sin \alpha \cos \beta + \cos \alpha \sin \beta \\
\\
\sin (\alpha – \beta) = \sin \alpha \cos \beta – \cos \alpha \sin \beta
\end{cases} } \)
【余弦の加法定理】
\( \color{red}{ \begin{cases}
\cos (\alpha + \beta) = \cos \alpha \cos \beta – \sin \alpha \sin \beta \\
\\
\cos (\alpha – \beta) = \cos \alpha \cos \beta + \sin \alpha \sin \beta
\end{cases} } \)
【正接の加法定理】
\( \color{red}{ \begin{cases}
\displaystyle \tan (\alpha + \beta) = \frac{\tan \alpha + \tan \beta }{1 – \tan \alpha \tan \beta} \\
\\
\displaystyle \tan (\alpha – \beta) = \frac{\tan \alpha – \tan \beta }{1 + \tan \alpha \tan \beta}
\end{cases} } \)
2. 加法定理の覚え方・語呂合わせ
ここでは加法定理の覚え方(導き方)について解説していきます。
加法定理は公式がたくさんありますが、これらをすべて丸暗記は得策ではない、、、というより少々きついです。
でも大丈夫!加法定理は、sinとcosの \( \alpha + \beta \) の方
【この2式だけは絶対に丸暗記しよう!!】
・\( \sin (\alpha + \beta) = \sin \alpha \cos \beta + \cos \alpha \sin \beta \)
・\( \cos (\alpha + \beta) = \cos \alpha \cos \beta – \sin \alpha \sin \beta \)
の2式だけしっかり覚えてしまえば、残りの4つ公式は自分で簡単に作れます!
加法定理の公式 \( \alpha – \beta \) の方は、
「\( \alpha + \beta \) の公式の +,- を変える」
だけで導くことができます。
続いて \( \tan (\alpha + \beta) \) の覚え方です。
\( \displaystyle \tan \theta = \frac{\sin \theta}{\cos \theta} \) より、
\( \begin{align}
\displaystyle \tan (\alpha + \beta) & = \frac{\sin (\alpha + \beta)}{ \cos (\alpha + \beta)} \\
\\
\displaystyle & = \frac{\sin \alpha \cos \beta + \cos \alpha \sin \beta }{\cos \alpha \cos \beta – \sin \alpha \sin \beta }
\end{align} \)
分母・分子を \( \cos \alpha \cos \beta \) で割ると
\( \displaystyle \color{red}{ \tan (\alpha + \beta) = \frac{\tan \alpha + \tan \beta }{1 – \tan \alpha \tan \beta} } \)
tanも同様に+,- を変えるだけで\( \alpha – \beta \) の方を導くことができるので
全体の関係をまとめると、次のような図になります。
また補足として、加法定理の覚え方の語呂合わせで有名なものがあるので紹介しておきます。
すべての公式を丸暗記するのではなく、必要に応じて、そのときどきに自力で公式を導ける力をつけておくことが超重要です。
3. 加法定理の証明
ここからは加法定理の証明を解説していきます。
加法定理の証明は、1999年の東京大学の入試第一問でも出題されたこともあります。つまり、重要ということです。
東大で出題されたからといっても、加法定理の証明はどの教科書でもふつうに載っていますし、これまでの基礎的な学習内容だけで証明できるので、身構えずに安心してくださいね。
3.1 \( \cos (\alpha – \beta) \) の証明
加法定理の証明は \( \cos (\alpha – \beta) = \cos \alpha \cos \beta + \sin \alpha \sin \beta \) の証明からスタートします。
上の図の単位円で、角 \( \alpha \),角 \( \beta \) の動径をそれぞれOA,OBとすると,点Aの座標は \( (\cos \alpha, \sin \alpha) \),点Bの座標は \( (\cos \beta, \ \sin \beta) \) となります。
この2点ABの距離の2乗を、「距離の公式」と「余弦定理」の2通りで表します。
【距離の公式】
2点A,B間の距離の2乗は
\( \begin{align}
AB^2 & = (\cos \alpha – \cos \beta)^2 + (\sin \alpha – \sin \beta)^2 \\
\\
& = \cos^2 \alpha – 2 \cos \alpha \cos \beta + \cos^2 \beta \\
& \ \ \ \ + \sin^2 \alpha – 2 \sin \alpha \sin \beta + \sin^2 \beta \\
\\
& = 2 – 2(\cos \alpha \cos \beta + \sin \alpha \sin \beta) \cdots ①
\end{align} \)
【余弦定理】
余弦定理より
\( \begin{align}
AB^2 & = OA^2 + OB^2 – 2 \cdot OA \cdot OB \cdot \cos (\alpha – \beta) \\
\\
& = 1^2 + 1^2 – 2 \cdot 1 \cdot 1 \cdot \cos (\alpha – \beta) \\
\\
& = 2 – 2 \cos (\alpha – \beta) \cdots ②
\end{align} \)
①,②より
\( 2 – 2(\cos \alpha \cos \beta + \sin \alpha \sin \beta) = 2 – 2 \cos (\alpha – \beta) \)
よって
\( \color{red}{ \cos (\alpha – \beta) = \cos \alpha \cos \beta + \sin \alpha \sin \beta } \cdots ③ \)
この式を用いて、ほかの公式の証明ができます。
3.2 \( \cos (\alpha + \beta) \) の証明
③の \( \beta \) を \( – \beta \) に置き換えると
\( \cos (\alpha + \beta) = \cos \alpha \cos (- \beta) + \sin \alpha \sin (- \beta) \)
\( \cos (- \theta) = \cos \theta \),\( \sin (- \theta) = – \sin \theta \) であるから
\( \color{red}{ \cos (\alpha + \beta) = \cos \alpha \cos \beta – \sin \alpha \sin \beta } \cdots ④ \)
【\( – \theta \) の三角関数】
・\( \sin (- \theta) = – \sin \theta \)
・\( \cos (- \theta) = \cos \theta \)
・\( \tan (- \theta) = – \tan \theta \)
3.3 \( \sin (\alpha – \beta) \) の証明
③の \( \alpha \) を \( \displaystyle \frac{\pi}{2} – \alpha \) に置き換えると
\( \displaystyle \cos \left(\frac{\pi}{2} – \alpha + \beta \right) = \cos \left( \frac{\pi}{2} – \alpha \right) \cos \beta – \sin \left(\frac{\pi}{2} – \alpha \right) \sin \beta \)
よって
\( \displaystyle \cos \left\{ \frac{\pi}{2} – (\alpha – \beta) \right\} = \cos \left( \frac{\pi}{2} – \alpha \right) \cos \beta – \sin \left( \frac{\pi}{2} – \alpha \right) \sin \beta \)
\( \displaystyle \cos \left( \frac{\pi}{2} – \theta \right) = \sin \theta \),\( \displaystyle \sin \left( \frac{\pi}{2} – \theta \right) = \cos \theta \) であるから
\( \color{red}{ \sin (\alpha – \beta) = \sin \alpha \cos \beta – \cos \alpha \sin \beta } \cdots ⑤ \)
【\( \displaystyle \frac{\pi}{2} – \theta \) の三角関数】
・\( \displaystyle \sin \left( \frac{\pi}{2} – \theta \right) = \cos \theta \)
・\( \displaystyle \cos \left( \frac{\pi}{2} – \theta \right) = \sin \theta \)
・\( \displaystyle \tan \left( \frac{\pi}{2} – \theta \right) = \frac{1}{\tan \theta} \)
3.4 \( \sin (\alpha + \beta) \) の証明
⑤の \( \beta \) を \( – \beta \) に置き換えると
\( \sin (\alpha + \beta) = \sin \alpha \cos (- \beta) – \cos \alpha \sin (- \beta) \)
\( \cos (- \theta) = \cos \theta \),\( \sin (- \theta) = – \sin \theta \) であるから
\( \color{red}{ \sin (\alpha + \beta) = \sin \alpha \cos \beta + \cos \alpha \sin \beta } \cdots ⑥ \)
3.5 \( \tan (\alpha + \beta) \) の証明
\( \begin{align}
\displaystyle \tan (\alpha + \beta) & = \frac{\sin (\alpha + \beta)}{ \cos (\alpha + \beta)} \\
\\
\displaystyle & = \frac{\sin \alpha \cos \beta + \cos \alpha \sin \beta }{\cos \alpha \cos \beta – \sin \alpha \sin \beta }
\end{align} \)
分母・分子を \( \cos \alpha \cos \beta \) で割ると
\( \begin{align}
\displaystyle \tan (\alpha + \beta) & = \frac{\frac{\sin \alpha}{\cos \alpha} + \frac{\sin \beta}{\cos \beta}}{1 – \frac{\sin \alpha}{\cos \alpha} \cdot \frac{\sin \beta}{\cos \beta}} \\
\\
& = \frac{\tan \alpha + \tan \beta }{1 – \tan \alpha \tan \beta}
\end{align} \)
ゆえに
\( \displaystyle \color{red}{ \tan (\alpha + \beta) = \frac{\tan \alpha + \tan \beta }{1 – \tan \alpha \tan \beta} } \cdots ⑦ \)
3.6 \( \tan (\alpha – \beta) \) の証明
⑦の \( \beta \) を \( – \beta \) に置き換えると
\( \displaystyle \tan (\alpha – \beta) = \frac{\tan \alpha + \tan (- \beta) }{1 – \tan \alpha \tan (- \beta)} \)
\( \tan (- \theta) = – \tan \theta \) であるから
\( \displaystyle \color{red}{ \tan (\alpha – \beta) = \frac{\tan \alpha – \tan \beta }{1 + \tan \alpha \tan \beta} } \cdots ⑧ \)
③~⑧の式より、加法定理の公式すべて証明ができました。
4. 加法定理を利用する問題(入試問題)
それでは、次は具体的に実際に加法定理を利用する入試問題を解いてみましょう!
4.1 入試問題1[京都産業大]
\( \cos 75^\circ \) の値を求めよ。
加法定理を利用することで、既知である「30°,45°,60°,90°」の三角比の値を使って、これらの角の和・差で表すことができる角(15°,75°,105°など)の三角比の値も求めることができます。
【解答】
\( \begin{align}
\cos 75^\circ & = \cos (30^\circ + 45^\circ) \\
\\
& = \cos 30^\circ \cos 45^\circ – \sin 30^\circ \sin 45^\circ \\
\\
\displaystyle & = \frac{\sqrt{3}}{2} \cdot \frac{1}{\sqrt{2}} – \frac{1}{2} \cdot \frac{1}{\sqrt{2}} \\
\\
\displaystyle & = \frac{\sqrt{3} – 1}{2 \sqrt{2}} \\
\\
\displaystyle & = \color{red}{ \frac{\sqrt{6} – \sqrt{2}}{4} \cdots 【答】 }
\end{align} \)
4.2 入試問題2[津田塾大]
\( \tan 105^\circ \) の値を求めよ。
【解答】
\( \begin{align}
\tan 105^\circ & = \tan (45^\circ + 60^\circ) \\
\\
\displaystyle & = \frac{\tan 45^\circ + \tan 60^\circ }{1 – \tan 45^\circ \tan 60^\circ } \\
\\
\displaystyle & = \frac{1 + \sqrt{3}}{1 – 1 \cdot \sqrt{3}} \\
\\
\displaystyle & = \frac{1 + \sqrt{3}}{1 – \sqrt{3}} \cdot \frac{1 + \sqrt{3}}{1 + \sqrt{3}} \\
\\
\displaystyle & = \frac{4 + 2 \sqrt{3}}{-2} \\
\\
& = \color{red}{ -2 – \sqrt{3} \cdots 【答】 }
\end{align} \)
4.3 入試問題3[大阪電気通信大]
\( \displaystyle \sin \alpha = \frac{4}{5} \ \left( 0 < \alpha < \frac{\pi}{2} \right) \) であり,\( \displaystyle \cos \beta = \frac{5}{13} \ \left( 0 < \beta < \frac{\pi}{2} \right) \) であるとき,\( \cos (\alpha – \beta) \) の値を求めよ。
\( \cos (\alpha – \beta) \) の値を求めるので、加法定理を利用すればよいことはわかると思います。
そのため、\( \sin \alpha, \ \cos \beta \) の値が必要になります。
そこで、三角関数の相互関係 \( \color{red}{ \sin^2 \theta + \cos^2 \theta = 1 } \) を利用して、\( \sin \alpha, \ \cos \beta \) の値を求めます。
【解答】
\( \displaystyle 0 < \alpha < \frac{\pi}{2}, \ 0 < \beta < \frac{\pi}{2} \) であるから、
\( \cos \alpha > 0, \ \sin \beta > 0 \)
\( \displaystyle \sin \alpha = \frac{4}{5} \) より
\( \displaystyle \cos \alpha = \sqrt{1 – \sin^2 \alpha} = \frac{3}{5} \)
\( \displaystyle \cos \beta = \frac{5}{13} \) より
\( \displaystyle \sin \beta = \sqrt{1 – \cos^2 \beta} = \frac{12}{13} \)
よって
\( \begin{align}
\cos (\alpha – \beta) & = \cos \alpha \cos \beta + \sin \alpha \sin \beta \\
\\
\displaystyle & = \frac{3}{5} \cdot \frac{5}{13} + \frac{4}{5} \cdot \frac{12}{13} \\
\\
\displaystyle & = \color{red}{ \frac{63}{65} \cdots 【答】 }
\end{align} \)
解答1行目のように、角 \( \alpha, \ \beta \) が第何象限の角なのかを確認し、三角関数の値の正負に注意しましょう。
5. 加法定理まとめ
さいごに今回の内容をもう一度整理します。
\( \begin{cases}
\sin (\alpha + \beta) = \sin \alpha \cos \beta + \cos \alpha \sin \beta \\
\\
\sin (\alpha – \beta) = \sin \alpha \cos \beta – \cos \alpha \sin \beta
\end{cases} \)
\( \begin{cases}
\cos (\alpha + \beta) = \cos \alpha \cos \beta – \sin \alpha \sin \beta \\
\\
\cos (\alpha – \beta) = \cos \alpha \cos \beta + \sin \alpha \sin \beta
\end{cases} \)
\( \begin{cases}
\displaystyle \tan (\alpha + \beta) = \frac{\tan \alpha + \tan \beta }{1 – \tan \alpha \tan \beta} \\
\\
\displaystyle \tan (\alpha – \beta) = \frac{\tan \alpha – \tan \beta }{1 + \tan \alpha \tan \beta}
\end{cases} \)
- 加法定理の覚え方\( \cdots \)\( \alpha – \beta \) の方は、「\( \alpha + \beta \) の公式の +,- を変える」だけで導ける!(\( \alpha + \beta \) の方さえ覚えればよい!)
三角関数では覚えるべき公式がたくさんあるため、すべてを丸暗記することは難しいです。だからこそ、自分で公式を導ける力が重要です!
公式の導き方を理解して、加法定理をバッチリ覚えてください!
2倍角のことがよくわかりません…
最初に覚えた加法定理があるじゃないですか。
あれの応用で同じ角を使えばいいんですよ